男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました

 私の言葉と行動に驚き、こめかみをひくつかせているキール。彼が私から距離を取ろうとする前に、もう一度唾を吐いてやった。
 今度はペッではなく、ブーッの方だ。

 一点集中ではなく、スプレー状に分散して吹き出した私の唾は、見事にキールの顔に飛び散った。
 その瞬間キールは怒りに駆られた顔を見せて、私の頭を床に叩きつけた。
 チカチカとしたプリズムな星々が目の前に広がった。けれどそれでも、私はまだ恐怖よりも怒りの感情が優っていた。

「……はっ。お前、自分の置かれている状況が理解できないほど、馬鹿な女だったか」

 顔にかかった私の唾を服の袖で拭う。笑い声を上げたが、本当に笑っているわけではないことは、その表情を見れば明らかだ。
 キールの背後にいるフードの男達が、剣の柄に手を添えた。それを目の端で捉えた瞬間ドキリとしたけれど、それも一瞬のこと。

 私はどう足掻いたって死ぬ。
 どんなに運命を変えようと努力したって、結局は分岐した別のルートを辿っただけで、同じゴールに辿り着いてしまう。

 ここにキールがいて、私がこうして命の危険にさらされているのが全ての答えだ。
 同じ死ぬのなら、悔いなく死にたい。いいや、悔いはたくさんあるけど、それを最小限にして死にたい。
 言いたいことも言えないまま、成す術も無いと涙を流し、こんなゲスに懇願して結局殺されるような運命を辿るくらいなら、今までの鬱憤を全て晴らして死んだ方がマシだ。