男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました

 だいたい、貴族が貴族を殺すのは重罪だ。
 リーチェは男爵令嬢。公爵であるキールにとっては、下の下にあたる私の身分など、庶民と変わらないのでしょうね。
 どこまでも人の人権を小馬鹿にするゲスだ。そんな人間に、私も人権を尊重してあげる気はさらさらない。

「……う」

 私はキールに肩を押されて、仰向けになる。そんな私に馬乗りになるキールに向けて、ボソリとつぶやいた。

「なんだ? なんて言ったんだ?」
「とうとう……」

 ムカつくキールの顔を避けるようにして、顔を背ける。私の顔にバサリと乱れた髪が覆った。

「おい、言いたいことがあるのなら、はっきりと言え。俺は気が短いんだ」

 キールは私の顔に掛かった乱れた髪を払い除け、私の顎をクイっと掴んで正面を向かせる。
 無理矢理向けさせられた視線の先には、眉間にシワを寄せたキールの顔がある。
 はっきり言えというのなら、言ってやろうじゃない。そう思って私は、鋭い視線をキールに向けた。

「とうとうクズを極めやがったなこのクソ野郎、って言ったのよ!」

 前世でよく観ていた海外映画やドラマであるように、ぺッて唾を吐いて、その端正な顔を(けが)してやろうかと思ったけど、うまくいかなかった。
 思い切り顔を上げて、ペッて吐き出したにもかかわらず、私の唾はキールの顔までは届かなかった。

 くそぅ……! そう思いつつも、キールには一泡を吹かせることができたみたい。
 こいつの驚いた顔が見ものだった。