男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました

 けれど私はキールの顔を見た瞬間、不思議とその恐れという感情がスーッと引いていった。
 引いていった恐れは、怒りと苛立ちの感情となって私の頭に昇っていく。

「……私を、殺すおつもりですか?」

 キールが現れたことで、さっきまで頭の片隅によぎっていた身代金による誘拐の線は消えた。
 犯人がキールなのであれば、理由は一つ。プライドだ。
 私が彼のプライドをズタズタにした。さらにいえばレオンとの決闘のこと。
 コイツは返事を保留にしていたけれど、結局は決闘なんてする気ははなからなかったんでしょうね。
 決闘を申し込んだ私を亡き者にし、全てを無かったことにするつもりだったんだ。

「それはお前次第だな。ここで俺を楽しませることができれば、命までは取らずにいてもいい」

 クズが。そんな言葉を信じられると?
 脳みそが下半身に付いているこのクソ男は、私とここで体を合わせた後、そのまま殺すつもりだろう。
 私がキールを拒もうと拒むまいと、結果は同じこと。
 すぐに殺すか、後で殺すか。たったそれだけの違いだ。

 恐怖に負けて彼を受け入れるだろうと、このゲス男は思っているだろうけど、そうはいかない。
 お前の薄汚い考えなんて、私には透けて見えている。
 私を殺すかどうか判断を決めかねているのであれば、私をこんなボロ小屋には連れてこなかったはず。
 人が、ましてや貴族がいるような場所ではない。そんな場所でそんな条件を提示してくる地点で、答えは一つしかない。