*
どうやら私は、あの後から気を失っていたらしい。
目を覚ますと視界は真っ暗。馬車に乗った時はまだ明るかったが、もう夜になったのだろうか。
というか寝てしまってた? いつの間に? 心労からくる疲れか?
なんて一瞬思ったけれど、徐々に脳が回転をはじめる。
……違う。夜なんかじゃない。
目の前が暗いのは、私の目を布で覆われてるせいだ。
寝てしまったと勘違いしたのは、私が横たわっているせい。
けれどここは、私の部屋のフカフカ天蓋付きベッドなんかじゃなく、冷たくて固い、そして埃っぽい床の上。
右頬に当たるそれが、私の記憶するベッドではないと確かに伝えてくる。
じゃあここは、どこなの?
後ろ手に縛られた両手。そして足も同じく不自由に縛られているようだ。
体をよじるとギシギシと軋む音を立てる手足のロープ。キツく縛られたそれに、痛みも伴う。
不自由なのは手足だけじゃない。
私の口にも布で覆われ、声が出せない状態だ。
そんな状況に私の頭は一気に冴え渡り、こめかみ辺りからツーッと冷たい汗が地面に向かって伝い落ちた。
何 が ど う な っ て る の ?
頭の中でチカチカと星が瞬くように、鋭い痛みが走っている。その痛みを耐えながら、自分の記憶を必死になって探る。
レオン達と別れて一人、我が家男爵家の馬車に乗った。
その道中で大きな音と共に馬車が揺れて……ああ、そうだ。
忘れていた記憶を掴んだと同時に、足音が聞こえる。



