男主人公が私(モブ令嬢)の作る香水に食いつきました

「だっ、誰か……っ!」

 マリーゴールドは後ずさるようにして立ち上がり、周りに助けを求めて声を上げる。震える体で、震える声を上げながら。
 きっとキールの表情に、怒りのオーラに、気圧されているのだろう。
 けれど殴られて睨まれている当の本人である私ときたら、キールのこんな態度や表情に対しても、今は心静かだ。
 殴られた事で、どこかのタガが外れてしまったのか。それとも驚きのあまり、他の感情が一時的に機能しなくなってしまったのか。
 どちらにせよ、今は彼を怖いとも思えない。それが逆にありがたかった。

「ぎゃーぎゃー騒ぐな」

 目線だけをマリーゴールドに投げるキール。そのキールの視線を受けて、マリーゴールドはさらに震え上がった。

「人を呼んで来てもいいが、困るのはこの女の方だぞ」

 緋色の瞳が月の光を浴びて、怪しく輝いた。ゾクッとするような妖艶な笑みなのに、私の心には恐怖ももちろんトキメキも感じない。
 少しずつ耳鳴りの音が鳴りやみ始めていた、矢先だった。

 ――ビリッ!

 キールが私のドレスを強く引っ張ったせいで、胸元のレース生地が破けた。それによってコルセットが露わになる。

「なっ、何をなさるおつもりですか!」
「言っただろう。人を呼べば困るのはリーチェの方だと」

 さっきまで震えていただけのマリーゴールドの顔から、どんどん血の気が引いていく。
 その表情を横目に見ながら、さっきまでどこか他人事のように感じていた私の体にも、感覚が戻ってきたのを感じた。