「私のアイス…」
「まあまあ、終わったら返すし、なんなら焼肉とか奢っちゃうから、ね?」
「あ、なら大丈夫です!!」
わかりやすいのね果音ちゃんって、と微笑まれてからハッとする。
遠慮してたのに結局アイスと焼肉と勢いに釣られてスタジオまで来てしまった。
モデルマネージャーさんの名前は雨宮 梨花。
見る目は編集長のお墨付きだとか何とか。
だからって私を食べ物で釣ってスタジオに連れてこないで欲しい。
とか言って、釣られた私が言えることじゃないんだけど。
「でもほんとよ、ほんとに果音ちゃんはモデルの素質がある」
「えー…ほんとですか?」
「ええ。私が道端から誰かを見出して連れてくるなんて、滅多にないのよ?」
「はあ…それはどうも?」
いや、そんなふうに言われましても。
今までモデルには興味がなかったし、どういうふうにやればいいのかまったくわかんないんだけど。
「まあ大丈夫よ!一回やってみて!!」
「え、ええええ…?」
「服とメイクは任せて!ちゃんとスタイリストがいるから!」
「そういう問題じゃな―――」
「よしレッツゴー!」
「ええええええ」
―――とまあ、そんなこんなで。
「へえ…?それでNeyBeに載ることになったんだ?」
「はい…そうです……」
翌日、目が笑っていないレイくんに言われた。
そう、大人気ファッション雑誌「NeyBe」。
モデルをやってみたところ、そこに撮ったやつが載ることになってしまったのだ。
「…………」
それを知ってから、レイくんはご機嫌斜めどころか直角である。急降下。もはや自由落下。
「俺の果音が世の中の男の目に映るのが気に食わなくて仕方がない、けど」
レイくんは私をちらりと見てからため息をついた。
レイくんには申し訳ないけど、やっぱり嬉しい。
「果音が載せていいって言ったんなら俺にどうこうできないし、それなら」
レイくんは、一回言葉を切ってから私の目を真っ直ぐに見た。
「次は俺と一緒で」
「へ?」
…あ、そういう問題?
許してくれるんだ…。まあ、もう決まっちゃったことに許すも許さないもないけど……。
でもやっぱり、レイくんって私を尊重してくれるなあ。
「果音を尊重してるだけじゃないよ」
「えぇ?」
レイくんが心を読んだみたいに言った言葉に、私は首を傾げた。
うーん、レイくんエスパー?ときどき、ものすごく高い精度で考えを読まれちゃう。
果たして、レイくんの頭がめちゃくちゃいいのか、私の考え方が単純なだけか…。
…たぶんどっちもかな。
「高森との決戦のときも言っただろ。果音が俺のだって示したい。俺が」
「………」
「だから俺のことは気にしないでいい。俺は、俺がやりたいことをやるだけ。果音も、果音がやりたいことをやればいい」
そう言って、レイくんは私を撫でた。
うーむ、なんというか……レイくん、イケメンだなあ……。
優しいし、尊重してくれるし、私が気負わないようにしてくれるし、本当に大好きだ。
そんな感じでホワホワしていると、ガラガラっと教室のドアが開いた。
「あっ、西園寺くんだ」
入ってきたのは、西園寺 嵐くん。
ヤベェやつのうちの1人で、暴走族《蒼穹》の総長さん……だけど、いつも遅刻してくるくせに、どうかしたのかな?
「今日は早いのね」
同じことを思ったのか、深山さんが呟いた。
その隣にどかっと座った西園寺くんは無表情のまま吐き捨てる。
「早く来たら悪いかよ」
「別に。明日大雪でも降るのかと心配しただけよ」
「チッ、そうかよ、なら明日コートでも着てくるんだな」
わーお、一気に空気がピリピリし出した……。
流石にあの別格のお2人が軽口叩いてるとみんな緊張するのかな。
まあでも、私は関係ないよね。
いずれはあの2人とも仲良くなりたいけど、今話しかけるほど非常識じゃないし。
「……ねえ、レイくん」
「ん?」
「《蒼穹》はとっても強いって聞くけど、どのくらい強いの?」
三澤地区の暴走族のことは知っている。
あっちにいるときは、それはもう散々勧誘されたものだ。
だけど私たちは、売られた喧嘩を買うだけ。喧嘩の組織に入るのは違うと思ったから、暴走族には入らなかった。
バイク、運転したくなかったし。
だから、久雪街の暴走族のことはちっとも知らないのだ。
それこそ、《蒼穹》が強いらしいっていう噂程度のことしかわからない。
「んー……《蒼穹》は、ヘタなヤクザなら潰せるくらい強い、かな」
「えっ」
思ったよりすごくて目を見開く。
世の中、暴走族よりヤクザのほうが強いものだ。
それもそのはず、ヤクザはヤクザであるからこそ銃とかを取引させてもらえるわけで。
暴走族なんて、取引相手から相手にしてもらえないって、昔お父さんから聞いた。
だから、暴走族はヤクザには敵わないんだって。
なのに。
「……まあ、それは《蒼穹》だからこそ、だろうけどな」
レイくんはそう言って西園寺くんを見た。
彼はまだ、深山さんと軽口を叩いている。案外仲がいいらしい。
「《蒼穹》は、他と違うところがあるの?」
「ああ。メンバーのやる気がな」
レイくんはそこで言葉を切る。これ以上は言わないつもりだろう。
気になったら直接聞けばいいか。
それか少しずつ、自分で知っていけばいい。
仲良くなるって、そういうことだ。
「まあまあ、終わったら返すし、なんなら焼肉とか奢っちゃうから、ね?」
「あ、なら大丈夫です!!」
わかりやすいのね果音ちゃんって、と微笑まれてからハッとする。
遠慮してたのに結局アイスと焼肉と勢いに釣られてスタジオまで来てしまった。
モデルマネージャーさんの名前は雨宮 梨花。
見る目は編集長のお墨付きだとか何とか。
だからって私を食べ物で釣ってスタジオに連れてこないで欲しい。
とか言って、釣られた私が言えることじゃないんだけど。
「でもほんとよ、ほんとに果音ちゃんはモデルの素質がある」
「えー…ほんとですか?」
「ええ。私が道端から誰かを見出して連れてくるなんて、滅多にないのよ?」
「はあ…それはどうも?」
いや、そんなふうに言われましても。
今までモデルには興味がなかったし、どういうふうにやればいいのかまったくわかんないんだけど。
「まあ大丈夫よ!一回やってみて!!」
「え、ええええ…?」
「服とメイクは任せて!ちゃんとスタイリストがいるから!」
「そういう問題じゃな―――」
「よしレッツゴー!」
「ええええええ」
―――とまあ、そんなこんなで。
「へえ…?それでNeyBeに載ることになったんだ?」
「はい…そうです……」
翌日、目が笑っていないレイくんに言われた。
そう、大人気ファッション雑誌「NeyBe」。
モデルをやってみたところ、そこに撮ったやつが載ることになってしまったのだ。
「…………」
それを知ってから、レイくんはご機嫌斜めどころか直角である。急降下。もはや自由落下。
「俺の果音が世の中の男の目に映るのが気に食わなくて仕方がない、けど」
レイくんは私をちらりと見てからため息をついた。
レイくんには申し訳ないけど、やっぱり嬉しい。
「果音が載せていいって言ったんなら俺にどうこうできないし、それなら」
レイくんは、一回言葉を切ってから私の目を真っ直ぐに見た。
「次は俺と一緒で」
「へ?」
…あ、そういう問題?
許してくれるんだ…。まあ、もう決まっちゃったことに許すも許さないもないけど……。
でもやっぱり、レイくんって私を尊重してくれるなあ。
「果音を尊重してるだけじゃないよ」
「えぇ?」
レイくんが心を読んだみたいに言った言葉に、私は首を傾げた。
うーん、レイくんエスパー?ときどき、ものすごく高い精度で考えを読まれちゃう。
果たして、レイくんの頭がめちゃくちゃいいのか、私の考え方が単純なだけか…。
…たぶんどっちもかな。
「高森との決戦のときも言っただろ。果音が俺のだって示したい。俺が」
「………」
「だから俺のことは気にしないでいい。俺は、俺がやりたいことをやるだけ。果音も、果音がやりたいことをやればいい」
そう言って、レイくんは私を撫でた。
うーむ、なんというか……レイくん、イケメンだなあ……。
優しいし、尊重してくれるし、私が気負わないようにしてくれるし、本当に大好きだ。
そんな感じでホワホワしていると、ガラガラっと教室のドアが開いた。
「あっ、西園寺くんだ」
入ってきたのは、西園寺 嵐くん。
ヤベェやつのうちの1人で、暴走族《蒼穹》の総長さん……だけど、いつも遅刻してくるくせに、どうかしたのかな?
「今日は早いのね」
同じことを思ったのか、深山さんが呟いた。
その隣にどかっと座った西園寺くんは無表情のまま吐き捨てる。
「早く来たら悪いかよ」
「別に。明日大雪でも降るのかと心配しただけよ」
「チッ、そうかよ、なら明日コートでも着てくるんだな」
わーお、一気に空気がピリピリし出した……。
流石にあの別格のお2人が軽口叩いてるとみんな緊張するのかな。
まあでも、私は関係ないよね。
いずれはあの2人とも仲良くなりたいけど、今話しかけるほど非常識じゃないし。
「……ねえ、レイくん」
「ん?」
「《蒼穹》はとっても強いって聞くけど、どのくらい強いの?」
三澤地区の暴走族のことは知っている。
あっちにいるときは、それはもう散々勧誘されたものだ。
だけど私たちは、売られた喧嘩を買うだけ。喧嘩の組織に入るのは違うと思ったから、暴走族には入らなかった。
バイク、運転したくなかったし。
だから、久雪街の暴走族のことはちっとも知らないのだ。
それこそ、《蒼穹》が強いらしいっていう噂程度のことしかわからない。
「んー……《蒼穹》は、ヘタなヤクザなら潰せるくらい強い、かな」
「えっ」
思ったよりすごくて目を見開く。
世の中、暴走族よりヤクザのほうが強いものだ。
それもそのはず、ヤクザはヤクザであるからこそ銃とかを取引させてもらえるわけで。
暴走族なんて、取引相手から相手にしてもらえないって、昔お父さんから聞いた。
だから、暴走族はヤクザには敵わないんだって。
なのに。
「……まあ、それは《蒼穹》だからこそ、だろうけどな」
レイくんはそう言って西園寺くんを見た。
彼はまだ、深山さんと軽口を叩いている。案外仲がいいらしい。
「《蒼穹》は、他と違うところがあるの?」
「ああ。メンバーのやる気がな」
レイくんはそこで言葉を切る。これ以上は言わないつもりだろう。
気になったら直接聞けばいいか。
それか少しずつ、自分で知っていけばいい。
仲良くなるって、そういうことだ。