ある日、転校生がやってきた。 2nd days










「で」

「うっ」


翌日の土曜日。三ツ瀬組の屋敷のレイくんの部屋にて。

レイくんに壁ドンされながら、私は言葉を詰まらせた。

なんか、こうやって詰問されるの増えてきた気がする。多分私が考えなしの単細胞だからです。ごめんなさい。


「――それで《絶界》を潰してきた、と」

「…その通りでございます」


昨日、あの後。

私は《絶界》に入ることを丁重にお断りした、んだけど。


『そうか、残念だ』


いきなりヤスヒロさんの態度が豹変しちゃって。


『ならば…力づくで、やるしかないな』


…なんて言い出して。

結局、暴走族《絶界》総出で襲ってきたから、私はそのまま暴走族丸々一つ、潰してきてしまった。


「果音は相変わらず強いな」

「そ、そうかな、レイくんほどじゃないけど」


レイくんは、私の手元のスマホに視線を落とした。

そこには、『暴走族《絶界》、謎の抗争によって壊滅か?昨夜未明に勢力喪失』というタイトルのデジタルニュース。

私がやったことはバレていないが、そういう問題じゃないことくらい私にもわかる。


「それにしても危なすぎる。自重して」

「おっしゃる通りです……」


今回はなんとかなったとはいえ、この調子じゃいつ長期入院の怪我を負ってもおかしくない。

それに、私だってレイくんに心配かけたいわけじゃないんだから、もっと気をつけなければ。

やっぱりヤンキーくんたちについて行かない方が良かったかなあ…。

でも、放っておくと厄介な気がしたんだよね…。

と言うのも、《絶界》を潰す直前。

ヤスヒロさんは、立ち上がる気力も残らず床に伏しながら、嘲笑うような顔と声で私に言ったのだ。


『知ってるか……あの男、西園寺 嵐は』

『……』

『自分の実の母親を殺したんだ』

『!』

『最も…俺がそうなるように、したんだけどな』


あの言葉は、どこから真実でどこから嘘なんだろう。

確かに来都くんは私に「家族と何かありそう」ということを教えてくれた。

だとしたら嵐くんが母親を殺したっていうのは真実であるのかもしれない。

でも、ヤスヒロさんが仕向けたって何?殺すように暗示でもかけた?

ヤスヒロさんは、なんでそんなに嵐くんを――


…そこまで考えて、私は思考を打ち切った。

これ以上は私が推測を立てても意味がない。

嵐くんに、聞かないと。




でも!!

でもだよ、その前に。


「レイくん」

「ん?」

「これ見て」


レイくんの目の前に差し出したのは、私のスマホ。

画面に表示されているのは、昨日やりとりしたレイくんパパ…豪さんとのトークだ。

いやあ、昨日突然豪さんからメッセージ来たときはびっくりしたよね。

宛先間違えたのかと思ったけど、レイくんの話だったからもしかして私!?みたいな。

しみじとしていると、差出人を見たレイくんは眉をひそめた。


「親父?」

「そう。私、レイくんに暴走族を潰しちゃった話をしに来たんだけど、目的はもう一つありまして」


豪さんは私に言ってきた。

レイくんは、最近仕事詰めでストレスが溜まっているだろう、と。

だから、私に、癒して、欲しいと!

私で癒しになるのかどうかは全くわからないが、今はそれでもいい。

豪さんはレイくんをよくわかっているから、豪さんが言うのならきっと私はレイくんのお役に立てるだろう。

画面を見て私の思考を読み取ったらしいレイくんは、大きく目を見開いてから顔を片手で覆った。

はーっと、盛大なため息。


「何それ、かわいすぎ…」

「……あーっ、と」


こういうとき、私はつくづくどういう反応をすればいいか困るんだよなあ。

レイくんが私に本心でそれを言ってくれてるって知っていて、だからこそ照れて、ありがとうなんて返せない。

そんな私の心情を知ってか知らずか、レイくんは私を腕の中に閉じ込めて逃げ場をなくしてから、笑った。


「それじゃあ、癒してもらおうか」

「えっ、あの、レイくん」

「んー?」


レイくんの甘ーいお顔が間近に迫る。

いくらキスしたことがあるからって、流石にこれは慣れない。


「わ、私は、何を……すれば、よろしいんでしょうか」


緊張してしりすぼみで言うと、レイくんはふはっと笑った。


「じゃあ、果音からキスして」

「えっ⁉︎」


いきなりハードルの高いおねだりをされて、私は思わず固まる。

私から、キス…??

正直キ、キス…はしたいけど、自分からはこの上なく恥ずかしい。

…いやそんなこと言ってちゃダメ、か。

いつもレイくんからしてもらってるんだから、ここは私が勇気を出さないと。

私、レイくんを癒すために来たんだから!


「…よし」


私は覚悟を決めて、レイくんの首に腕を回す。

やってやろうじゃないか。女は度胸だ!

一気に近づいて、唇に軽く、キスした。


「…!」


頑張って、ちょっと長めに。

触れるだけの、柔らかいキス。

…ああ、安心する。

やっぱりものすごく恥ずかしいけど、レイくんに触れてると、すっごく安らぐ。


「……」

「――っ⁉︎」


すると、私の腰と後頭部を引き寄せたレイくんは、足りない、というふうにもっとキスを深くしてくる。


「んん、待っ」

「しー……」


静かに、とレイくんが囁いたかと思えば、私を深く貪ってくる。

渇望するように。乾いた砂漠が水を求めるように。

――とはいえ、渇望していたのはレイくんだけではないらしい。

私の心臓の奥はじくじくと痛むが、それは嫌な痛みじゃない。

熱くて、濡れてて、もっと欲しいと願う、心地よい痛み。

レイくんのディープキスに籠絡されてすっかり力が抜けた私は、レイくんに縋りついた。


「…レイくん、もっと」

「!………いつの間にそんなかわいい言葉言えるようになったの」


レイくんはほんのり耳を赤くして私の鼻先に唇を落とすと、私を改めて抱きしめた。


「あー…癒される」

「……それは、よかった」


なんか私、さっき恥ずかしいことを言った気がするけど、きっと気のせいに違いない。

さっきの記憶を意識の外にぽいっと投げ捨てて、私はレイくんの温もりを感じた。

…私こそ、癒されちゃってる。

レイくんを癒しに来たはずなのに。


「ほんと好き。大好き」


レイくんはそう言って体を離すと、キスを再開した。

今度はお互いの温度を感じるような、深くも軽くもない、安心するキス。

そこから下唇を噛まれたかと思うと、一気に深くしてきた。


「っ、ぁ……⁉︎」

「………は、たまんねえ」


こぼれ出た荒い口調に、お腹の奥が疼いた。

そんなこと聞いたら、ますますドキドキしちゃう。

頭の奥が溶けそうで、ほんとに、どうにかなっちゃいそう。


「いいよ、もっとしよう」


レイくんは瞳に熱をぎらつかせて言った。


「俺たちが溶けるくらい」


そうして、甘い時間は続いていく。

それから私たちは、お互いを貪りあった。