「え、瀬名先生、今日もかっこよくない?」
「ほんと、朝から目の保養なんだけど」
「立ってるだけで様になるの反則でしょ」
点滴台で作業をしている他のスタッフたちが騒ぎ出す。
小声で話してる風なのに、全然小さくない。
クスクスと笑い声が混じり、何人かの視線が先生に集まる。
「ちょっと、聞こえてるんだけど」
瀬名先生は苦笑しながらも、どこか慣れた様子で受け流していた。
その姿を見て、私は胸の奥が少しだけざわつく。
――やっぱり、先生はこういう人なんだ。
誰にでも自然で、誰にでも優しくて。
「吉岡さん、ごめん、今日〇〇さんにIC(病状説明)するから同席してくれる?」
そう言いながら先生が私がいるところへ近づいてきた。
「……あ、すみません。私は他の検査出しに行かないといけなくて、ペアの佐々木さんに同席してもらいます」
自分でも驚くほど、声は淡々としていた。
瀬名は立ち止まり、一瞬だけ、言葉を失ったように瞬きをする。
「先生、よろしくお願いします」
私の隣で一緒に点滴を作っていた佐々木さんが、先生に明るく声をかけた。
「……そっか。じゃあ、あとでお願いします」
「はいっ」
元気に返事をした佐々木さんの横で、私はペコっと頭だけ下げると、点滴を持ってワゴンへ移動した。
背中に、瀬名の視線を感じながら。
ちょっと不自然だったかな…
いざとなると難しい。普通にしたつもりだけど、変に力が入ってしまう。
先生を避けてしまったことに罪悪感まで湧いてくる。
でもこれでいいんだよね。
これ以上近づいて、期待してしまう自分が怖かった。
あの日のデート。
あの距離。
あの視線。
「特別」だと思いたくなる気持ちを、これ以上大きくしたくなかった。


