一度息を吸う。
「今の私は、先生のことしか考えられません」
先生が息を呑む気配がした。
「だから――今度は、私が先生を幸せにしたいって思ってます」
返事を待つ時間が、ひどく長く感じた。
けれど次の瞬間、先生がふっと力を抜くように笑った。
「……ほんと、敵わないな」
一歩近づいて、そっと頬に触れられる。
「じゃあ、俺はもっと幸せにするよ」
「いえ、先生は幸せにされてください」
「いや、俺が幸せにする」
思わず吹き出すと、先生も小さく笑った。
そのまま、また繋いだ手を引かれて歩き出す。
しばらくして、見覚えのある建物が視界に入った。
ディスティーノメモリア。
あの日、人生が終わったと思った場所。
そして――先生が、私を救い出してくれた場所。
「……ここ、ですか」
思わず呟くと、先生が静かに頷いた。
「嫌なら、別のところにするよ」
慎重な声だった。
私の表情を窺うように、優しくこちらを見る。
だから、私は首を横に振った。


