隣を見ると、先生は前を向いたままだった。
けれど、さっきまで軽く触れていただけだった指先が、今はしっかり絡められている。
まるで、離さないと伝えるみたいに。
「行こうか」
静かな声とともに降りてくる、優しい視線。
私は小さく頷いた。
「はい……じゃあ」
軽く会釈をして、その場を離れる。
歩き出してからもしばらく、先生は何も言わなかった。
ただ、繋いだ手だけが少し熱い。
いつもより歩幅が少しだけ大きくて、思わず隣を見上げる。
真っ直ぐ前を向く横顔は穏やかなのに、どこか余裕がなさそうに見えた。
「……先生?」
小さく呼ぶと、先生が短く息を吐いた。
「ごめん」
「え?」
「思ってたより、平気じゃなかった」
その言葉に、胸がかすかにざわめく。
先生は少しだけ困ったように笑った。
「……彼、元彼だよね」
やっぱり、気づいていたんだ。
「はい……そうです」
そう答えると、先生は「そっか」と小さく呟いた。
それから少しだけ視線を落として、苦笑する。


