隣で先生が不思議そうに私を呼んだ。
けれど返事をする前に、向こうもこちらに気づいたようだった。
一瞬だけ、空気が張り詰める。
前から歩いてきたのは、田代祐一だった。
隣には、あのときホテルのロビーで見た女性がいる。
以前より少しだけ丸みを帯びたお腹が目に入って、胸の奥がわずかにざわついた。
「……ひより」
先に声をかけたのは、ゆうくんだった。
その声を聞いても、不思議なくらい胸は揺れなかった。
痛みがないわけじゃない。
けれどそれはもう、今の私を引き戻すものではなかった。
「久しぶり」
そう返すと、ゆうくんは少しだけ気まずそうに笑った。
「……元気そうだね」
「うん。田代くんも」
もう、“ゆうくん”とは呼べない。
短い会話。
それ以上、何を話せばいいのかわからなかった。
隣にいる女性のお腹に、ふと目が向く。
二人は手を繋いでいて、その姿は穏やかで、自然で。
きっと、この人たちなりに前へ進んでいるんだと思った。
不思議と苦しくはなかった。
ーーーそのとき。
繋いでいた手に、少しだけ力がこもる。


