その日のデートは、特別なことをしたわけじゃなかった。
車ではなく駅前で待ち合わせをして、並んで歩いて、気になっていたカフェに入って。
外に出ると、自然に手が繋がれる。
そのたびに胸の奥がくすぐったくなって、何度も小さく笑ってしまった。
「ひより」
名前を呼ばれて顔を上げると、瀬名先生がこちらを見ていた。
「ちょっと行きたいところがあるんだけど、連れてっていい?」
「はい」
そう答えると、先生は少しだけ目を細めて笑った。
「じゃあ、行こうか」
繋いだ手が、きゅっと握られる。
触れられるたび胸が小さく跳ねて、まだうまく平静ではいられない。
それなのに、不思議なくらい嫌じゃなくて。
隣にある温もりが、ただ嬉しかった。
世界が輝いて見えるって、こういうことなんだと思った。
街路樹の並ぶ通りを歩いていると、不意に視線の先に見覚えのある姿が映った。
その瞬間、足が止まる。
「……ひより?」


