「だって、もしその理由が別れが惜しくなるようなものだったらたまったもんじゃないからさ」
「……ねえ、はなび」
「なに?」
言おうか、言ってしまおうか。
言えばきっと、はなびは───
「やっぱ何でもない」
「そっか」
必死に抑えた自分の欲望。
これは身勝手で、はなびを傷つけるものだ。
……だから、絶対に言っちゃいけないんだ。
「薫、今日は会いに来てくれてありがとう。さようなら」
思い直せたことに安心し、去っていくはなびと後ろ姿に少し泣いた。
遠ざかっていく小さな背中に、そっと呟く。
「はなび、本当にありがとう。俺、はなびとまた話せてよかった。……さようなら」
この恋心だって、いつかは終わる。
線香花火みたいに、煌めいて、最後は地に落ちる。
だからもう少しだけ、好きという気持ちを心の中に大切にしまっておこう。
〔完〕



