さよなら、わたしの初恋



「あ、ううん。ひとりごと」


 はなびはごまかすように愛想笑いを浮かべた。


「……ねえ、はなび」

「ん?」

「最後にさ、一緒に線香花火しない?」


 これは、俺の最後のわがまま。


 ◇


 線香花火はパチパチと燃え、火花が夜の風に吹かれては消えていく。


 どんなに明るく燃えようとも、いずれは消えて落ちる。それが線香花火だ。

 いつまでも続くと願いたいのに、現実はそう甘くいかない。


 はなびと肩を並べて帰り道を歩く。

 こんなことも今日で最後なんだと思うと、胸が張り裂けそうなくらい苦しい。

 だけど、これは俺への戒めだ。


 五年前、俺は弱くて、はなびから逃げた。

 だからもう、よりを戻したいなんて思う資格はない。


「……ここまででいいよ」

「……うん」


 はなびが立ち止まったから、俺も足を止めた。
 そして、訊くつもりはなかった質問をした。きっと、かすかな願望を抱いていたんだろう。


「……五年前に、俺が姿を消した理由、訊かないの?」


 ───俺が消えた理由を聞いたら、優しいはなびは同情してずっと側にいてくれるんじゃないか。

 ……って。


「うん、訊かない」


 はなびはまっすぐな目で俺を射抜いた。

 汚い願望を見透かされそうで、少し怖かった。


「……なんで?」