さよなら、わたしの初恋



 中学三年の冬、俺たちは付き合い始めた。

 顔を真っ赤にしたはなびが俺に告白してきた時はさすがに驚いたけれど、ずっと気になっていた子だったからすぐにオッケーした。


 いつも姿勢良く授業を受け、誰かの悪口も言わず、自分を持っているところを好きになるのに時間はかからなかった。


 そして、高二の夏。
 自分の体に異変を感じ始めたのはこの時だったと思う。

 部活をしている時に、息切れすることが増えた。


 母親が俺を心配して病院に連れて行くと、そこで言われたのは信じがたい事実だった。


 ───『薫くん、もうサッカーをするのは辞めてください』

『あなたのお父様は、心臓病でしたよね。恐らく、お父様のご病気が薫くんにも遺伝したのだと思います』


 それが何を指すのかは分かりきっていた。

 つまり、俺は心臓病なのだと。


 突きつけられた事実はあまりに重くて、目の前が真っ暗になった。

 すぐに思い浮かんだのははなびの笑顔だった。


 俺はいつか、父親のように天国へ旅立つかもしれない。もしそうなれば、はなびはどんな思いをするだろう。


 想像するだけでも苦しくて、俺は沢山の葛藤の末決断した。


 はなびの目の前から忽然と姿を消すことを。
 遠い県の病院で治療を受け、療養しようと。


 そして、五年前の花火大会の日。


 はなびと約束していた待ち合わせ場所に向かう途中で、俺の心臓は暴れ出した。
 息ができなくて、前が見えなくて、ただ苦しかった。


 地面に横たわり、意識が朦朧としている時に思い出したのは、楽しそうに花火大会の計画を立てるはなびの横顔だった──。


 何も言わずに目の前から消えた男を、はなびはきっと恨むだろう。俺が病気になったことも知らないままでいたら、はなびが苦しむことはないだろうと。


 そう、思ったんだ。


「……もう、連絡を待つ必要がなくなったなあ」


 考え事をしていたら、横からそんな言葉が聞こえた。


「え……?」