〈side 葦零〉
雫宮にとって僕は、兄なんかじゃないんだろう。
兄にすらなれない、弟みたいな頼りない存在。
でも時折視線を感じてそっちを向くと、心配そうにこちらを見ている雫宮がいる。
それがなんだか嬉しくて、頼りないって言われてるようなもんだけどその視線を感じると頬が緩むんだ。
「零兄・・・?」
こっちを見てくる雫宮を見つめ返していると、雫宮が困惑したように首をかしげて近づいてくる。
「なぁに?」
なにも気づいていませんと言わんばかりに訊き返すと、雫宮は困ったように眉を下げる。
普通のクラスメイトだったら気付かないくらいの変化だけど、兄妹として過ごすようになってからそういう変化にも敏感になったと思う。
特に、雫宮の変化にはね。
「いや・・・なんでも」
雫宮は戸惑ったように顔にかかった髪を耳にかけ、僕に背を向けてリビングから出ていく。
可愛いなぁ・・・こんな、兄と妹の関係でいるなんてもったいない。
雫宮を僕が幸せにしないと。
僕は家を継ぐことをもう望まない。
家は継げなくてもいいから・・・雫宮と結婚する。
「零兄?ティラミスつくったよ」
「ティラミス⁉雫宮の手作り⁉」
雫宮は料理を担当するようになってからスイーツを作ってくれることも増えた。
しかも、どれも絶品で。
虐待されてたのにどこでそんな技習得したのかってくらい、技術一つ一つが繊細なんだよね。
「やった~皆も食べたの?」
「いや・・・まだ」
ってコトは僕が一番か・・・。
いや、雫宮が僕に一番に食べてほしかったのかな?なんて。
「え~じゃあ僕が毒見係ってコト?」
「えっ・・・そういうわけ、じゃ・・・」
茶化すようにそう言うと、雫宮が申し訳なさそうな顔をし、慌てて顔の前で両手を振った。
「冗談だよ!僕に最初に食べてほしかったの~?」
「ん・・・零兄はいつも絶対美味しいって言ってくれる、から・・・」
・・・なにこの子可愛すぎない?
僕がいつも美味しいをいってるから?
僕に一番に食べてほしいの?
「可愛いねぇ、雫宮」
思わずその頬を撫でると、雫宮はびっくりしたように飛びのく。
来たばっかりの頃の雫宮だったら触れられる前に避けただろうから、もう僕を警戒してないってコトかな・・・?
「な、にしてっ・・・」
いつも無表情で白い雫宮の顔にほんのりピンクが差す。
照れてる・・・可愛い。
もうなにしても可愛いなんて・・・反則すぎて心臓に悪い・・・。
1人心の中で悶えている誰かが入ってくる。
「あ、葦零と雫宮」
鈴蘭だ。
「わぁ、ティラミス?」
「ん・・・鈴兄にはあとで持ってこうと思ってて」
いかにも仲良し兄妹ですと見せつけるように鈴蘭が雫宮に触れる。
それも慣れているように、ごく自然に。
「いま食べる?」
「食べる!」
鈴蘭はすぐに食いつき、雫宮は表情を少し和らげて冷蔵庫からもう一つカップを持ってきた。
「手作りなのに市販よりおいしいね」
「そう・・・?ありがとう」
鈴蘭の評価に、嬉しそうにする雫宮にモヤモヤする。
2人は、ホントに仲良しだ。
お互いの心を読めているというか、濃い血の繋がりを感じる。
だから・・・冷静に考えても、本能でも、どちらの可能性でも2人がくっつく可能性が高い。
鈴蘭にとって僕はライバルにすら入らないんだろう。
だって雫宮は、僕を男じゃなくて庇護対象に入れているから。
「葦零、雫宮のスイーツ美味しいよね」
ほら、ライバルだと思ってないから、雫宮の話が僕にも向くようにしてくれる。
鈴蘭のそういうトコロ、好きだけど好きじゃ無いなぁ・・・。
善意でやってるんだろう。
外では情報目当てで人に近づいて要らなくなったらすぐに捨てる冷徹人な感じだけど、リラックスしてるときはすごく優しくて気の利いた裏方役だから。
「葦零?」
「っん~?なんでもないよ~。ホント雫宮のつくるものってすごい美味しいよねぇ~」
バレてはいけない。
僕が鈴蘭に、いい感情以外も抱いてしまってるコトは。
でも・・・。
「零兄、どうかした・・・?」
鈴蘭も聞いてこないような小さな僕の陰りに気づいてくれる雫宮だけは、諦めれないなぁ・・・。
〈side 葦零 END〉
雫宮にとって僕は、兄なんかじゃないんだろう。
兄にすらなれない、弟みたいな頼りない存在。
でも時折視線を感じてそっちを向くと、心配そうにこちらを見ている雫宮がいる。
それがなんだか嬉しくて、頼りないって言われてるようなもんだけどその視線を感じると頬が緩むんだ。
「零兄・・・?」
こっちを見てくる雫宮を見つめ返していると、雫宮が困惑したように首をかしげて近づいてくる。
「なぁに?」
なにも気づいていませんと言わんばかりに訊き返すと、雫宮は困ったように眉を下げる。
普通のクラスメイトだったら気付かないくらいの変化だけど、兄妹として過ごすようになってからそういう変化にも敏感になったと思う。
特に、雫宮の変化にはね。
「いや・・・なんでも」
雫宮は戸惑ったように顔にかかった髪を耳にかけ、僕に背を向けてリビングから出ていく。
可愛いなぁ・・・こんな、兄と妹の関係でいるなんてもったいない。
雫宮を僕が幸せにしないと。
僕は家を継ぐことをもう望まない。
家は継げなくてもいいから・・・雫宮と結婚する。
「零兄?ティラミスつくったよ」
「ティラミス⁉雫宮の手作り⁉」
雫宮は料理を担当するようになってからスイーツを作ってくれることも増えた。
しかも、どれも絶品で。
虐待されてたのにどこでそんな技習得したのかってくらい、技術一つ一つが繊細なんだよね。
「やった~皆も食べたの?」
「いや・・・まだ」
ってコトは僕が一番か・・・。
いや、雫宮が僕に一番に食べてほしかったのかな?なんて。
「え~じゃあ僕が毒見係ってコト?」
「えっ・・・そういうわけ、じゃ・・・」
茶化すようにそう言うと、雫宮が申し訳なさそうな顔をし、慌てて顔の前で両手を振った。
「冗談だよ!僕に最初に食べてほしかったの~?」
「ん・・・零兄はいつも絶対美味しいって言ってくれる、から・・・」
・・・なにこの子可愛すぎない?
僕がいつも美味しいをいってるから?
僕に一番に食べてほしいの?
「可愛いねぇ、雫宮」
思わずその頬を撫でると、雫宮はびっくりしたように飛びのく。
来たばっかりの頃の雫宮だったら触れられる前に避けただろうから、もう僕を警戒してないってコトかな・・・?
「な、にしてっ・・・」
いつも無表情で白い雫宮の顔にほんのりピンクが差す。
照れてる・・・可愛い。
もうなにしても可愛いなんて・・・反則すぎて心臓に悪い・・・。
1人心の中で悶えている誰かが入ってくる。
「あ、葦零と雫宮」
鈴蘭だ。
「わぁ、ティラミス?」
「ん・・・鈴兄にはあとで持ってこうと思ってて」
いかにも仲良し兄妹ですと見せつけるように鈴蘭が雫宮に触れる。
それも慣れているように、ごく自然に。
「いま食べる?」
「食べる!」
鈴蘭はすぐに食いつき、雫宮は表情を少し和らげて冷蔵庫からもう一つカップを持ってきた。
「手作りなのに市販よりおいしいね」
「そう・・・?ありがとう」
鈴蘭の評価に、嬉しそうにする雫宮にモヤモヤする。
2人は、ホントに仲良しだ。
お互いの心を読めているというか、濃い血の繋がりを感じる。
だから・・・冷静に考えても、本能でも、どちらの可能性でも2人がくっつく可能性が高い。
鈴蘭にとって僕はライバルにすら入らないんだろう。
だって雫宮は、僕を男じゃなくて庇護対象に入れているから。
「葦零、雫宮のスイーツ美味しいよね」
ほら、ライバルだと思ってないから、雫宮の話が僕にも向くようにしてくれる。
鈴蘭のそういうトコロ、好きだけど好きじゃ無いなぁ・・・。
善意でやってるんだろう。
外では情報目当てで人に近づいて要らなくなったらすぐに捨てる冷徹人な感じだけど、リラックスしてるときはすごく優しくて気の利いた裏方役だから。
「葦零?」
「っん~?なんでもないよ~。ホント雫宮のつくるものってすごい美味しいよねぇ~」
バレてはいけない。
僕が鈴蘭に、いい感情以外も抱いてしまってるコトは。
でも・・・。
「零兄、どうかした・・・?」
鈴蘭も聞いてこないような小さな僕の陰りに気づいてくれる雫宮だけは、諦めれないなぁ・・・。
〈side 葦零 END〉



