〈side 鈴蘭〉
一番、勝算があると思っていた。
兄弟の中で多分、一番仲が良かった。
自分以外、雫宮は選ぶはずがない。
でももし、少しの可能性を考えると、選ばれるとしたら伊毬。
物腰柔らかで、みんなの王子様。
優しいけどしっかりしてて、思いやりが行き届いててみんなに好かれるリーダーで長兄。
女の子にとってはすごく優良物件だと思うし、雫宮のすべてを尊重し包んで全部を愛せると思う。
でも・・・それでも、俺が8割勝利の予定だった、はずなんだ。
「鈴兄」
雫宮に名前を呼ばれるたび、その確信は強くなっていって。
雫宮は俺を選んでくれる。
そう、信じていたのに。
「鈴兄、・・・ごめん」
雫宮は、俺を選ばなかった。
それでも、雫宮はしっかり俺を考えてくれていた。
皇逢がいるのに、俺の部屋まで来るなんてなんて無防備で・・・、俺を、信じてくれているんだろう。
無表情ながら、雰囲気はちょっとふんわりとした優しげなものになっている。
今初めて・・・雫宮に、母性を感じた。
雫宮と結婚できても、雫宮が母になるところを想像はできなかった。
皇逢はそれを想像できたから、雫宮に選ばれたんだろうか。
「私は・・・自分の気持ちよりも家の都合を優先したいと思った。だから、誰の気持ちにも応えてない」
雫宮はせめてもの優しさでそういったんだと、すぐに判断する。
でもよく考えると・・・雫宮の場合、ホントにそうかもしれない。
誰かの気持ちに応えたり、誰かを好きになるなんて有り得ないんじゃないのか。
そう考えると、そうとしか思えなくなってくるのは、俺の愚かさを表してるんだろう。
「あ、りがとう・・・しずく」
自分の声が震え、拙い文になってしまったコトに自分でも驚く。
雫宮もそこまでとは思っていなかったのか、驚いたように目を見開いた。
「雫宮は妹で、皇逢は兄。そこに義が入ったとしても、大切な家族、だから・・・」
深呼吸をしてから、話す。
声は震えてるけど、さっきよりは上手く喋れてるはずだ。
「だから・・・俺は、2人の幸せを祈れる。2人が幸せになれるなら、俺はそれで幸せなんだよ」
「鈴兄・・・」
雫宮がなにか考えるように首をかしげる。
そして雫宮は、突然衝撃の事実を口にした。
「私と鈴兄、結構前に会ってるし話したコトあるよ」
「え・・・?」
俺と雫宮が初めて話したのは、雫宮が家に来た時のはず。
でも、その前に会ってた・・・?
「多分覚えてないだろうけど。・・・私が小5のとき・・・鈴兄は中1だったでしょ。合同体育祭で、鈴兄が転んだ子かばって保健委員のテント来て・・・その時対応したの、私だから」
え・・・。
たしかに、ゴールして、ゴールテープで足を引っかけて転びそうになった子をかばった記憶はある。
結構血が出て、応援団長にめちゃくちゃ心配されて保健委員のテントに行ったコトも。
その時から女子に人気があると自覚していた俺は、保健委員が女子で、最初は俯いてたっけ。
でもその女子がずっと喋らずに黙々と手当てをしてたから、顔を上げたら無表情の美女が・・・。
「っあれ、雫宮だったの⁉」
たしかに覚えている。
顔までは覚えてないけど、すごく整ってて、ショートカットだったから、どちらかというとイケメン、と言った方がよかった気がする。
「うん・・・あのころの自分はあまり好きじゃないから思い出されても嫌だし、言ったコトないんだけど」
「ならなんで今言ってくれたの?」
「鈴兄に知ってもらいたい、って思ったから・・・?」
・・・可愛すぎる。
なんでこんな・・・雫宮ってやっぱりツンデレな小悪魔ちゃんだったの・・・?
その優しさと意外な甘さで、いろんな男・・・いや、女も泣かせてそうだ。
雫宮は本人が思ってる以上に、腹の中に入れたやつには甘いから。
だから、傷つけられたら本気で怒るんだろう。
雫宮は仲間想いで、仲間を傷つけられるのは最大の地雷。
そんな雫宮が選んだ相手が・・・悪い奴なはずがない。
しかも、皇逢は俺の双子の兄だ。
信じてるし、雫宮を幸せにしないはずがない。
大丈夫・・・皇逢なら、いつか雫宮を笑顔で満たせる。
・・・そう、わかってるのに。
「・・・っう・・・」
雫宮の幸せを祈って、笑顔で『ありがとう』って言いたいのに。
「し、雫宮っ・・・」
俺には、その華奢な腕に縋るコトしかできない。
「鈴兄・・・、その、」
雫宮が言いずらそうにこちらをチラチラとみる。
不思議に思ってると、雫宮の顔が少し、ホントに少しだけ赤くなった。
可愛い・・・珍しくて思わず雫宮の腕にしがみついたままその顔を上目遣いに見つめる。
「その・・・私は、」
視線を彷徨わせ、言おうか言うまいか迷っているように見える。
「なぁに?言いたいコトあるなら聞くよ?」
我慢できず、首を傾げながら訊いてみる。
すると雫宮は、照れたように顔の横の髪を指でいじりながら小さく口を開いた。
「・・・鈴兄のコト、大好きだよ・・・?」
「え・・・」
雫宮はそれだけ言うと、少し困ったように笑って部屋を出て行った。
大、好き・・・雫宮が。
雫宮が普段絶対に言わないコトだから、あんな恥ずかしがってたのか。
「大好き、大好き、か・・・」
可愛い妹の久しぶりのデレが嬉しすぎて、1人でニヤニヤする。
ホントに心の底から思う。
好きになれてよかったよ、雫宮。
〈side 鈴蘭 END〉
一番、勝算があると思っていた。
兄弟の中で多分、一番仲が良かった。
自分以外、雫宮は選ぶはずがない。
でももし、少しの可能性を考えると、選ばれるとしたら伊毬。
物腰柔らかで、みんなの王子様。
優しいけどしっかりしてて、思いやりが行き届いててみんなに好かれるリーダーで長兄。
女の子にとってはすごく優良物件だと思うし、雫宮のすべてを尊重し包んで全部を愛せると思う。
でも・・・それでも、俺が8割勝利の予定だった、はずなんだ。
「鈴兄」
雫宮に名前を呼ばれるたび、その確信は強くなっていって。
雫宮は俺を選んでくれる。
そう、信じていたのに。
「鈴兄、・・・ごめん」
雫宮は、俺を選ばなかった。
それでも、雫宮はしっかり俺を考えてくれていた。
皇逢がいるのに、俺の部屋まで来るなんてなんて無防備で・・・、俺を、信じてくれているんだろう。
無表情ながら、雰囲気はちょっとふんわりとした優しげなものになっている。
今初めて・・・雫宮に、母性を感じた。
雫宮と結婚できても、雫宮が母になるところを想像はできなかった。
皇逢はそれを想像できたから、雫宮に選ばれたんだろうか。
「私は・・・自分の気持ちよりも家の都合を優先したいと思った。だから、誰の気持ちにも応えてない」
雫宮はせめてもの優しさでそういったんだと、すぐに判断する。
でもよく考えると・・・雫宮の場合、ホントにそうかもしれない。
誰かの気持ちに応えたり、誰かを好きになるなんて有り得ないんじゃないのか。
そう考えると、そうとしか思えなくなってくるのは、俺の愚かさを表してるんだろう。
「あ、りがとう・・・しずく」
自分の声が震え、拙い文になってしまったコトに自分でも驚く。
雫宮もそこまでとは思っていなかったのか、驚いたように目を見開いた。
「雫宮は妹で、皇逢は兄。そこに義が入ったとしても、大切な家族、だから・・・」
深呼吸をしてから、話す。
声は震えてるけど、さっきよりは上手く喋れてるはずだ。
「だから・・・俺は、2人の幸せを祈れる。2人が幸せになれるなら、俺はそれで幸せなんだよ」
「鈴兄・・・」
雫宮がなにか考えるように首をかしげる。
そして雫宮は、突然衝撃の事実を口にした。
「私と鈴兄、結構前に会ってるし話したコトあるよ」
「え・・・?」
俺と雫宮が初めて話したのは、雫宮が家に来た時のはず。
でも、その前に会ってた・・・?
「多分覚えてないだろうけど。・・・私が小5のとき・・・鈴兄は中1だったでしょ。合同体育祭で、鈴兄が転んだ子かばって保健委員のテント来て・・・その時対応したの、私だから」
え・・・。
たしかに、ゴールして、ゴールテープで足を引っかけて転びそうになった子をかばった記憶はある。
結構血が出て、応援団長にめちゃくちゃ心配されて保健委員のテントに行ったコトも。
その時から女子に人気があると自覚していた俺は、保健委員が女子で、最初は俯いてたっけ。
でもその女子がずっと喋らずに黙々と手当てをしてたから、顔を上げたら無表情の美女が・・・。
「っあれ、雫宮だったの⁉」
たしかに覚えている。
顔までは覚えてないけど、すごく整ってて、ショートカットだったから、どちらかというとイケメン、と言った方がよかった気がする。
「うん・・・あのころの自分はあまり好きじゃないから思い出されても嫌だし、言ったコトないんだけど」
「ならなんで今言ってくれたの?」
「鈴兄に知ってもらいたい、って思ったから・・・?」
・・・可愛すぎる。
なんでこんな・・・雫宮ってやっぱりツンデレな小悪魔ちゃんだったの・・・?
その優しさと意外な甘さで、いろんな男・・・いや、女も泣かせてそうだ。
雫宮は本人が思ってる以上に、腹の中に入れたやつには甘いから。
だから、傷つけられたら本気で怒るんだろう。
雫宮は仲間想いで、仲間を傷つけられるのは最大の地雷。
そんな雫宮が選んだ相手が・・・悪い奴なはずがない。
しかも、皇逢は俺の双子の兄だ。
信じてるし、雫宮を幸せにしないはずがない。
大丈夫・・・皇逢なら、いつか雫宮を笑顔で満たせる。
・・・そう、わかってるのに。
「・・・っう・・・」
雫宮の幸せを祈って、笑顔で『ありがとう』って言いたいのに。
「し、雫宮っ・・・」
俺には、その華奢な腕に縋るコトしかできない。
「鈴兄・・・、その、」
雫宮が言いずらそうにこちらをチラチラとみる。
不思議に思ってると、雫宮の顔が少し、ホントに少しだけ赤くなった。
可愛い・・・珍しくて思わず雫宮の腕にしがみついたままその顔を上目遣いに見つめる。
「その・・・私は、」
視線を彷徨わせ、言おうか言うまいか迷っているように見える。
「なぁに?言いたいコトあるなら聞くよ?」
我慢できず、首を傾げながら訊いてみる。
すると雫宮は、照れたように顔の横の髪を指でいじりながら小さく口を開いた。
「・・・鈴兄のコト、大好きだよ・・・?」
「え・・・」
雫宮はそれだけ言うと、少し困ったように笑って部屋を出て行った。
大、好き・・・雫宮が。
雫宮が普段絶対に言わないコトだから、あんな恥ずかしがってたのか。
「大好き、大好き、か・・・」
可愛い妹の久しぶりのデレが嬉しすぎて、1人でニヤニヤする。
ホントに心の底から思う。
好きになれてよかったよ、雫宮。
〈side 鈴蘭 END〉



