〈side 朔冴〉
あの日。
雫宮を見て・・・唯一を、見つけたと思った。
                                                                         
「・・・」
                                                                   
一方的に俺が雫宮を見つけて。
無言でただ歩くその姿を、愛おしいと思った。
背筋は伸びて、身長は平均よりも少し高めで、誰ともかかわろうとしない孤高の存在で。
でも、どこか寂し気な感じがした。
実際はまっすぐ前を向いているのに。
俺には、美しい彼女が俯いているように見えた。
その顔を、上げさせてあげたいと思った。
彼女の笑顔を、1番に見たいと思った。
                                                                  
「・・・ねぇ」
                                                                 
その時まだ小3だった雫宮に声を掛けた記憶は。
俺が小6で、もう4,5年前の話なのに鮮明で。
もちろん返事をするどころか見向きもされなかったけど。
俺は続ければいいと思っていた。
あと1年もない。
そうしたら、中学でも高校でも彼女と同じになるコトはない。
余裕ぶってたけど、焦ってた。
1週間1ヵ月と続けても彼女は返事すらしない。
                                                                   
「ねぇ・・・返事、して」
                                                                     
「・・・」
    
俺の存在なんて認識していませんと言わんばかりに歩き続ける彼女に、俺は我慢が出来なくて。
                                                            
「お願い・・・返事してくれないなら、俺、死──」
                                                                    
人はこういわれると弱くなる、と考えたセリフを言おうとすると。
パシリ、と腕を掴まれた。
                                                               
「・・・死・・・?今、死って言った・・・?」
                                                              
怖いくらいに感情を失っている瞳が妖しい光を灯す。
それは、少しばかり怒ってるような気がした。
                                                                     
「っ・・・」
                                                                
返事してくれて嬉しい、と思ったのもつかの間。
だんだん強くなる怒りの瞳が怖くなって、彼女に『死』は禁句だと気づいてももう遅くて。

「ご、ごめ・・・」

誰にも執着したことがなかったのに、彼女には嫌われたくないと思う。
なんでかはわからないけど、本能がそう言っていた。
彼女に嫌われてはいけない、と。

「・・・いえ」

彼女は、ハッとしたように俺の手を離す。
さっきまで怖いとか思ってたくせに、名残惜しいと感じてしまう。

「・・・皐月、朔冴さん」

「っ・・・」

名前・・・俺の名前、知っててくれて・・・。

「・・・死は、軽いものではない」

言い聞かせるように雫宮が言って、その場を立ち去る。
いつの間にか集まっていた野次馬がバラバラを散らばり、自分の頬が紅潮していくのが分かった。
雫宮、女の子のくせに・・・男のこっちがドキッとしちゃったじゃん。

「っふふ・・・」

彼女と、接点が出来た。
それが今の俺には、どうしようもなく嬉しいんだ。

〈side 朔冴 END〉