「僕は好きな人、いいと思うな」       
呟きながら抱きしめる腕に力を籠め、雫宮を見つける。                                    
「私と意見が違う人がいるのは当たり前です」
それだけ言って僕の腕の中から逃げようとする雫宮の頬にキスを落とす。
「・・・葦零さん?」                      
「僕は雫宮、好きだよ?」
「・・・どうも。でも逢ってたった数分です」
「それでも。一目惚れ、ってあるでしょ?」
まぁ・・・一目惚れ、ではないんだけど。
僕は学園で雫宮とすれ違ったことがあった。
そのときになんか・・・体に電気がビビッと走るような感覚がして・・・。
長男の伊毬(いまり)に相談したところ、「それは恋だよ?」と平然と返されたのである。
・・・これも、一目惚れ?      
「・・・離してください」   
身をよじり、僕の腕の中からもう一度抜け出そうとした雫宮のシートベルトを外し、持ち上げて自分の膝に乗せた。
「・・・なにを」                                                                     
声音は変らないとしても、雫宮の様子からは動揺が見て取れる。
そんな雫宮の白い首に顔をうずめ、首筋をぺろりと舐めた。
「・・・葦零、やめろ」                 
そんな時に声を発したのは皇逢(こうあ)だった。
僕から雫宮を取り上げ、自分の隣に座らせて丁寧にシートベルトを付けている。
「・・・どうも」                                                                                                                                                                                                                                                                            
心なしか安心したような雫宮にムッとしながら、僕は窓を見て脚を組んだ。
「もう、葦零ったらがっつき過ぎると嫌われるよ?」
伊毬の忠告に笑いながら頷くと、朔冴(さくさ)が口を開いた。
「・・・雫宮・・・嫌がること、俺、許さない・・・」
お・・・?                                                                                                                                                                                                                                                                
なんか朔冴も雫宮のコトを気に入ってしまったみたいだ。
「葦零、女の子の嫌がるコトをしちゃ駄目だよ?」
鈴蘭(すずらん)さえも苦笑をしながら言ってきて、僕はむくれながら雫宮に視線を移す。
「・・・」      
雫宮は数秒間僕を見つめた後、ふいっと目をそらした。
・・・あれぇ。                                                                                                                                                                                        
嫌われてはない・・・はず。           
ね?嫌ってないよね?        
・・・義妹(しずく)ちゃん?       
ちょ、目そらさないで。       
何故が皇逢が隣で安心しているっぽいし。
まぁいっか。                                                                                                                                                                                         
これから──僕が、雫宮のこと躾けていくから。                 
雫宮ぅ・・・甘い生活、楽しみにしててね?   
〈side 葦零 END〉