その日の夜──
「・・・なんで・・・」
「・・・いえば・・・」
お風呂上り、リビングに入ろうとすると、中から声がした。
気配からして・・・義兄が全員いるっぽい。
なんとなくなんの話をしているのか気になって、扉に耳を当ててみる。
「・・・で、なんでなの」
鈴兄が誰かに問いかける。
それに答えたのは・・・。
「・・・決まってるだろ」
皇兄だった。
なにを訊いてるんだろう・・・?
「4人分で雫宮は混乱してる。次期当主を困らせることは本望じゃないし、困らせて皐月家が崩れてしまうのはあってはならないコトだ。雫宮が困るくらいなら、俺は自分の気持ちを封印するコトを選ぶ」
「皇逢・・・そんな大人なコト考えられるのは皇逢だけだね。皇逢の上に2人もいるのに」
鈴兄が毬兄と朔兄に言ったらしきセリフに、零兄の笑い声が聞こえる。
「ってコトは・・・雫宮から声が掛からない限り雫宮と結婚する道はないってコト?」
「いや?伊毬の言った通り諦めはしないし、雫宮の心が落ち着いてチャンスが来たら言うつもりだ」
・・・立派な次期当主候補だ。
皇兄が一番、お義父さんが『望むコト』の条件に当てはまる。
だとしたら、私がとる行動はひとつ。
リビングの扉を開け、集まった視線を気にしないようにしながら皇兄のソファーに近づく。
「皇兄」
「・・・雫宮?どうした」
会話を聞かれたとは思わないんだろう。
リビングに入る前、あたかも今お風呂から上がってリビングに向かってきたかのような足音を立ててきたんだから。
「私からの単なる提案だけど」
「・・・」
義兄全員がこっちに注目している。
どうやら私が言いたいことに察しがついていないようだ。
「・・・私と皐月家を作りませんか」
「・・・雫宮、それは・・・」
皇兄が驚いたような顔をする。
「これは契約です。結婚しても仮面夫婦となる。でも、お義父さんの望みを叶えてあげたい」
「どういうコトだ?」
「私と皇兄が結婚したら、当主は皇兄。私は当主夫人になるけど、裏では私が当主の仕事を担う。表向きは皇兄が当主になる。お義父さんはやっぱり我が子に家を継いでほしいんだと思う。私は・・・そのお義父さんの望みを叶えるために、皇兄・・・皐月皇逢に契約結婚を提案します」
「雫宮・・・俺でいいのか。雫宮よりもレベルが低い。雫宮にふさわしいとは・・・」
「皇兄は謙虚だね。それが長所で短所」
当主となって引き身でいてはいけない。
でも個人的には、皇兄のそんなところが好ましいと思っている。
「・・・雫宮は、いいのか。俺は偽善者とは言えないほどの人間だぞ?人の為と言い訳をして自分の罪悪感を減らそうとする。こんな当主なんて父さんも不安だろう」
皇兄は自分を卑下しすぎだ。
もう少し自信を持ったほうがいいし、それは偽善ではなく誠実な心だろうに。
「・・・私は、皇兄が断りたいなら、断ってくれていいと思ってる。いくら皐月家子息だとしても好きな子くらいいるだろうし。皇兄よりも当主に向いてる知り合いはいないけど・・・無理矢理じゃないから私は他の・・・」
「いい。父さんが俺を認めてくれてるなら、その期待に応える。・・・それに、好きな奴もいるがそれは雫宮、だし・・・」
最後は小さな声で恥ずかしそうに首に片手をやる皇兄に、まわりの義兄たちも驚きを隠せないでいる。
そんな中、いち早く復活したのは零兄だった。
「雫宮・・・!僕じゃダメ・・・?父さんは、僕じゃ不十分だと思ってる・・・?僕、上辺だけの人間関係ならいっぱいあるし・・・!」
「零兄・・・のコトは私もお義父さんも認めてる。でも、一番向いてるのはって考えるとどうしても皇兄になるから・・・ごめん」
「・・・そっ、か」
少し寂しそうに笑う零兄に心が痛む。
零兄が、告白してくる前から私のコトを想ってくれていたのは知っている。
「鈴兄と朔兄も・・・ごめんなさい、皇兄が断ったら4人のコトも考えてたんだけど・・・」
「俺は雫宮に選ばれたからな。断るなんて選択肢はない」
「あー・・・一番大人な対応した皇逢なんだよなぁ・・・うん、悔しいけど同意だよ」
「ん・・・気持ちでは皇逢には負けない・・・でも、雫宮の判断正しい・・・」
鈴兄と朔兄も納得してくれたらしく、私はリビングの扉越しに感じるお義父さんの気配に少しだけ笑みを零した。
「・・・なんで・・・」
「・・・いえば・・・」
お風呂上り、リビングに入ろうとすると、中から声がした。
気配からして・・・義兄が全員いるっぽい。
なんとなくなんの話をしているのか気になって、扉に耳を当ててみる。
「・・・で、なんでなの」
鈴兄が誰かに問いかける。
それに答えたのは・・・。
「・・・決まってるだろ」
皇兄だった。
なにを訊いてるんだろう・・・?
「4人分で雫宮は混乱してる。次期当主を困らせることは本望じゃないし、困らせて皐月家が崩れてしまうのはあってはならないコトだ。雫宮が困るくらいなら、俺は自分の気持ちを封印するコトを選ぶ」
「皇逢・・・そんな大人なコト考えられるのは皇逢だけだね。皇逢の上に2人もいるのに」
鈴兄が毬兄と朔兄に言ったらしきセリフに、零兄の笑い声が聞こえる。
「ってコトは・・・雫宮から声が掛からない限り雫宮と結婚する道はないってコト?」
「いや?伊毬の言った通り諦めはしないし、雫宮の心が落ち着いてチャンスが来たら言うつもりだ」
・・・立派な次期当主候補だ。
皇兄が一番、お義父さんが『望むコト』の条件に当てはまる。
だとしたら、私がとる行動はひとつ。
リビングの扉を開け、集まった視線を気にしないようにしながら皇兄のソファーに近づく。
「皇兄」
「・・・雫宮?どうした」
会話を聞かれたとは思わないんだろう。
リビングに入る前、あたかも今お風呂から上がってリビングに向かってきたかのような足音を立ててきたんだから。
「私からの単なる提案だけど」
「・・・」
義兄全員がこっちに注目している。
どうやら私が言いたいことに察しがついていないようだ。
「・・・私と皐月家を作りませんか」
「・・・雫宮、それは・・・」
皇兄が驚いたような顔をする。
「これは契約です。結婚しても仮面夫婦となる。でも、お義父さんの望みを叶えてあげたい」
「どういうコトだ?」
「私と皇兄が結婚したら、当主は皇兄。私は当主夫人になるけど、裏では私が当主の仕事を担う。表向きは皇兄が当主になる。お義父さんはやっぱり我が子に家を継いでほしいんだと思う。私は・・・そのお義父さんの望みを叶えるために、皇兄・・・皐月皇逢に契約結婚を提案します」
「雫宮・・・俺でいいのか。雫宮よりもレベルが低い。雫宮にふさわしいとは・・・」
「皇兄は謙虚だね。それが長所で短所」
当主となって引き身でいてはいけない。
でも個人的には、皇兄のそんなところが好ましいと思っている。
「・・・雫宮は、いいのか。俺は偽善者とは言えないほどの人間だぞ?人の為と言い訳をして自分の罪悪感を減らそうとする。こんな当主なんて父さんも不安だろう」
皇兄は自分を卑下しすぎだ。
もう少し自信を持ったほうがいいし、それは偽善ではなく誠実な心だろうに。
「・・・私は、皇兄が断りたいなら、断ってくれていいと思ってる。いくら皐月家子息だとしても好きな子くらいいるだろうし。皇兄よりも当主に向いてる知り合いはいないけど・・・無理矢理じゃないから私は他の・・・」
「いい。父さんが俺を認めてくれてるなら、その期待に応える。・・・それに、好きな奴もいるがそれは雫宮、だし・・・」
最後は小さな声で恥ずかしそうに首に片手をやる皇兄に、まわりの義兄たちも驚きを隠せないでいる。
そんな中、いち早く復活したのは零兄だった。
「雫宮・・・!僕じゃダメ・・・?父さんは、僕じゃ不十分だと思ってる・・・?僕、上辺だけの人間関係ならいっぱいあるし・・・!」
「零兄・・・のコトは私もお義父さんも認めてる。でも、一番向いてるのはって考えるとどうしても皇兄になるから・・・ごめん」
「・・・そっ、か」
少し寂しそうに笑う零兄に心が痛む。
零兄が、告白してくる前から私のコトを想ってくれていたのは知っている。
「鈴兄と朔兄も・・・ごめんなさい、皇兄が断ったら4人のコトも考えてたんだけど・・・」
「俺は雫宮に選ばれたからな。断るなんて選択肢はない」
「あー・・・一番大人な対応した皇逢なんだよなぁ・・・うん、悔しいけど同意だよ」
「ん・・・気持ちでは皇逢には負けない・・・でも、雫宮の判断正しい・・・」
鈴兄と朔兄も納得してくれたらしく、私はリビングの扉越しに感じるお義父さんの気配に少しだけ笑みを零した。



