入ってきた人は私を見て驚いている。
ただその表情の中にどこかわかっていた感じがするのは気のせいではないだろう。
「涙悪」
「お兄ちゃん・・・?」
雲母の兄は、涙悪だった。
「やっぱり・・・姫様、姫様が・・・うちに泊まりに来ていたんですね」
「お兄ちゃん・・・涙悪ってなに?姫様って・・・」
「雲母、私はずっと涙悪といた。私と涙悪は仲間だったんだよ。・・・名前については、お互い突っ込まないでほしい」
本名を知る必要はないし、知ろうとも思わないから。
「涙悪、なんでわかった」
そう訊いたとたん、涙悪は私にスマホのメッセージ画面を見せてきた。
妹『今日はクラスの女の子が泊まりに来ます』 10:05
自分『名前』 10:07 既読
妹『皐月雫宮です』 10:34
・・・簡潔すぎないか、質問。
「それ・・・お兄ちゃんとメール始めてから初めての返信が来たやつ・・・」
・・・初めて。
涙悪、妹と会わないどころかメールで会話もしていなかった。
「姫様は雫宮ではなく死図苦なのでちょっと不安でしたが・・・やっぱり姫様でしたね」
涙悪が私のことを少なからず調べているなんて、わかっていた。
でも、私だって涙悪や殺夜のことを調べている。
本名、年齢、学歴なんかも。
本名は桜兎琉宛、18歳で学校に通っていたら大1。
名字が雲母と同じ桜兎だったので大体勘づいてたけど・・・まさか、ね。
「お兄ちゃん・・・その、私が学校行ってる間にお金・・・置いて行ってくれてありがとう」
「・・・金?」
涙悪の視線が鋭くなる。
その表情は、私を捕まえようとした男たちに向けたのと同じくらい冷たかった。
「・・・親戚の誰かが置いて行ったのでしょう」
「確かに合鍵は持ってるけど・・・でも、あれはお兄ちゃんのでしょう?親戚のみんなに聞いてみたけどそんなこと誰もしてないって」
「ですから・・・」
「涙悪、見苦しいよ」
見かねて声をかけた私に2人の視線が集まり、兄妹だなぁ、と思う。
「涙悪、私ちゃんと涙悪のコト調べたうえで言うけど、私が学校の間アルバイトしてるでしょ」
「・・・なんのコトでしょう。俺はずっと殺夜と一緒にアジトにいますよ」
「殺夜にも、喰乃にも獣火にも訊いたけど、嘘でしょ。わかりやい嘘はつかなくていいから」
呆れたような視線を送れば涙悪は。
「っはー・・・流石姫様。鋭いところも素敵ですね」
「本調子に戻らない」
なんでそこで忠誠心と比べると行き過ぎた崇拝の心を受け流し、さらに訊いてみる。
「なんで嘘つく?」
「・・・俺と妹との関わりといえば、血くらいです。妹は中卒で家を出て行ったきり帰ってこない俺が怖いでしょう。俺も妹に会いたいとは正直思いませんし、俺からの金なんて怖くて使えないでしょうし。でも、親戚ばかりに迷惑かけるのも違うと思ってアルバイトをしたまでです。勘違いしているみたいですが、これは私の偽善であり、罪悪感を減らすための自分勝手で自己中心的な考えです」
最後の一文は、雲母に向けられた言葉だろう。
涙悪が私に『勘違いしているみたいですが、』なんて辛辣感漂う言い方はしない。
「涙悪・・・なんで帰らないの?あ、雲母が怖がるからっていうのが建前なのは分かってるし」
「・・・、・・・姫様と出会ったからですよ」
「私?が原因?」
「えぇ」
涙悪は何故かうれしそうな顔をしながら語りだした。
・・・嫌な予感しかしなかったけど。
ただその表情の中にどこかわかっていた感じがするのは気のせいではないだろう。
「涙悪」
「お兄ちゃん・・・?」
雲母の兄は、涙悪だった。
「やっぱり・・・姫様、姫様が・・・うちに泊まりに来ていたんですね」
「お兄ちゃん・・・涙悪ってなに?姫様って・・・」
「雲母、私はずっと涙悪といた。私と涙悪は仲間だったんだよ。・・・名前については、お互い突っ込まないでほしい」
本名を知る必要はないし、知ろうとも思わないから。
「涙悪、なんでわかった」
そう訊いたとたん、涙悪は私にスマホのメッセージ画面を見せてきた。
妹『今日はクラスの女の子が泊まりに来ます』 10:05
自分『名前』 10:07 既読
妹『皐月雫宮です』 10:34
・・・簡潔すぎないか、質問。
「それ・・・お兄ちゃんとメール始めてから初めての返信が来たやつ・・・」
・・・初めて。
涙悪、妹と会わないどころかメールで会話もしていなかった。
「姫様は雫宮ではなく死図苦なのでちょっと不安でしたが・・・やっぱり姫様でしたね」
涙悪が私のことを少なからず調べているなんて、わかっていた。
でも、私だって涙悪や殺夜のことを調べている。
本名、年齢、学歴なんかも。
本名は桜兎琉宛、18歳で学校に通っていたら大1。
名字が雲母と同じ桜兎だったので大体勘づいてたけど・・・まさか、ね。
「お兄ちゃん・・・その、私が学校行ってる間にお金・・・置いて行ってくれてありがとう」
「・・・金?」
涙悪の視線が鋭くなる。
その表情は、私を捕まえようとした男たちに向けたのと同じくらい冷たかった。
「・・・親戚の誰かが置いて行ったのでしょう」
「確かに合鍵は持ってるけど・・・でも、あれはお兄ちゃんのでしょう?親戚のみんなに聞いてみたけどそんなこと誰もしてないって」
「ですから・・・」
「涙悪、見苦しいよ」
見かねて声をかけた私に2人の視線が集まり、兄妹だなぁ、と思う。
「涙悪、私ちゃんと涙悪のコト調べたうえで言うけど、私が学校の間アルバイトしてるでしょ」
「・・・なんのコトでしょう。俺はずっと殺夜と一緒にアジトにいますよ」
「殺夜にも、喰乃にも獣火にも訊いたけど、嘘でしょ。わかりやい嘘はつかなくていいから」
呆れたような視線を送れば涙悪は。
「っはー・・・流石姫様。鋭いところも素敵ですね」
「本調子に戻らない」
なんでそこで忠誠心と比べると行き過ぎた崇拝の心を受け流し、さらに訊いてみる。
「なんで嘘つく?」
「・・・俺と妹との関わりといえば、血くらいです。妹は中卒で家を出て行ったきり帰ってこない俺が怖いでしょう。俺も妹に会いたいとは正直思いませんし、俺からの金なんて怖くて使えないでしょうし。でも、親戚ばかりに迷惑かけるのも違うと思ってアルバイトをしたまでです。勘違いしているみたいですが、これは私の偽善であり、罪悪感を減らすための自分勝手で自己中心的な考えです」
最後の一文は、雲母に向けられた言葉だろう。
涙悪が私に『勘違いしているみたいですが、』なんて辛辣感漂う言い方はしない。
「涙悪・・・なんで帰らないの?あ、雲母が怖がるからっていうのが建前なのは分かってるし」
「・・・、・・・姫様と出会ったからですよ」
「私?が原因?」
「えぇ」
涙悪は何故かうれしそうな顔をしながら語りだした。
・・・嫌な予感しかしなかったけど。



