昼休み──。
「キャー!・・・様よ!」
「もしかして雫宮様目当てかな?!」
「・・・様もいる!夢みたい・・・!」
廊下が騒がしい。
・・・嫌な予感がするよーな。
「雫宮ー食堂行こー」
ひょこっと教室もなどから顔を出したのは零兄。
後ろには義兄が全員いる。
みんなで来たら目立つのに。
行かなくてもいいかな。
思わずそう考えると、皇兄が教室に入ってきた。
「悪い、無理に連れてくつもりはないんだが・・・葦零が止まらなくてな。いやだったら張り倒してもいいぞ?」
こういう時、謝りに来てくれる人は好ましい。
でもね。
それが弟に対する兄の言葉なのか。
「・・・大丈夫」
少しずつ、慣れるのは大切だ。
廊下に出ると、ニコニコと笑う零兄が迎えてくれる。
「行こーよ、時間なくなっちゃう」
急かされて、私たちは零兄の後を追った。
「んぉ?!雫宮ちゃんだ!可愛いなぁ」
「そういやお前雫宮のファンだっけ?・・・俺もだけど」
「ファンじゃなくて好きなんだよ!俺は真剣!」
前を歩く男子の2人組がこっちを見て騒ぎ出す。
かわいい・・・?
人と関わらない私を見つめは普通『怖い』。
でも・・・それ以外の人も、いる?
「俺は雫宮ちゃんと会えるだけで人生が成り立つの!」
「確かに。ラッキー人物というか」
ラッキー?
私と会えるだけでうれしいんだろうか。
その時。
「・・・くれてやるものか」
耳元に低い声がして、隣を歩く皇兄を見る。
そのまま腰に手を当てられ、ぐっと引き寄せられた。
「皇兄・・・?」
「・・・ん、あ」
声を掛けると、皇兄は厳しい表情を緩める。
「早く行こう」
誤魔化された気がするけど・・・私は一瞬目を瞑り、歩き出した。
      
私が初めて足を踏み入れる食堂。
いつも人がいない裏庭のベンチで食べてるからなぁ。
「ここが僕たちの席!」
零兄に連れてこられたのは、大きめの丸テーブル。
中華料理店みたいに二段目が回るようになっている。
その二段目には、箸やスプーンフォーク、ナイフにお手拭き、水やコップなど。
でも中華料理店っぽく赤色のわけではなく、温かみのある茶色。
どう考えても他のテーブルとは違う。
普通のテーブルは長くて一段、白っぽいベージュの古めのもの。
明らかに皐月家の特別扱いだな。
「なに頼む~?」
スキップをしながら訊いてくる皇兄。
「僕はいつものかな」
「・・・俺も」
「俺もだ」
「俺もあれがいいな」
それぞれのお店に階に行く義兄たち。
私はオムライス屋に行き、店員さんに声を掛けた。
「このミニオムライス、もう少し小さくしてもらえますか?」
「はっはい!もちろんですっ!」
店員さんは大きく頷き、奥に何かを言う。
「で、では少なくした分の値段を引かせていただきまして・・・」
皐月家当主様からもらったお小遣いでオムライスを買う。
そして、すぐにオムライスが出てきた。
「大変お熱くなっておりますので、お気を付けくださいっ・・・」
店員さんの顔、なんか赤いような気がするけど・・・。
不思議に思いながらテーブルに戻る。
「えっ雫宮、小さくない?」
「・・・これくらいでいいから」
「いやいや、倒れちゃうよ!お金なら払うから・・・!」
「?」
別に私はお金に困ってるわけじゃないんだけど・・・。
「当主様からお小遣い貰ってるから大丈夫」
そういうと、みんなの目が大きく見開かれた。
「甘やかさないようにってお小遣いをくれない父さんが・・・」
「雫宮にはあげたの・・・?!」
えっ・・・お小遣い上げてないの、当主様?
「・・・ま、まぁ、雫宮がいいならなにも言わないよ」
鈴兄は苦笑して席に着き、スプーンを手に取る。
「いただきます」
スプーンでたまごを掬う。
ふわふわしているたまごと、バターライス。
口に運ぶと、ふわりとバターの味がした。
そんなオムライスも5口で終わり・・・。
「・・・ふぅ」
お腹いっぱいだ。
ゆっくりと温かい緑茶を飲む。
「えー・・・ホントにたりる?」
「・・・ん」
これ以上食べたらトイレに籠っちゃう。
午後の授業もあるし、それは避けたい。
「そういえば雫宮ってお昼なに食べてたの?」
「・・・自分で弁当作ってた」
「へぇ、料理できるの?」
こっくりと頷くと、鈴兄がこっちを見た。
「雫宮の料理、食べたいな」
圧がすごい。
いや、でも・・・私は住まわせてもらってる側だし・・・。
それくらいはしないと失礼だよね。
「・・・ん、分かった、私でいいなら」
「やった!じゃあ料理人は解雇しちゃお」
「あぁ、いざとなったら朔冴もいるしな」
どうやら朔兄は料理ができるらしい。
「・・・ん?」
さっきから視線がすごい。
まわりからの、恐怖と好奇心の視線が・・・。
「あー昨日の雫宮可愛かったなぁ」
突然、零兄は話し出す。
それも、わざとらしくかなり大きな声で。
「雫宮ってツンデレなんだよねー?」
・・・もしかして、気を遣われた?
こう言うコトで、みんなが私に話しかけやすくなるから・・・。
零兄も、一応考えてるんだな。