事実だ。
皐月家では一番優秀な子供が後を継ぐ。
全員の子供が優秀じゃなかったら、養子をとる。
父さんはきっと・・・。
僕たちの能力が傾いているからだ。
全体的にとびぬけて優秀な兄弟がいないからだ。
だから、雫宮を養子にしたんだ。
「鈴兄の努力を、誰も見ていないと?」
「そうだね、みんなが見るのは『結果』であって『努力』じゃない」
「見てるでしょ。兄も弟も」
「・・・っ」
雫宮の言葉に息をのむ鈴蘭。
そしてゆっくり僕を振り返る。
「努力をしない人がそう簡単に爪痕を残せると思う?」
・・・僕たちは、わかっていた。
お互いが努力しているコト。
すべてはこの家の一員として、父さんに認めてもらうため。
跡を継ぎたいわけじゃない。
皐月家の子息として・・・存在を必要としてほしかった。
僕たちは勉強をすれば成績はトップ5に入るし、運動をすれば選手並みになる。
でも・・・雫宮にはどうしても勝てなかった。
『才能』で片づけられたくなかった僕が、雫宮を『才能』で片づけた。
「それに・・・」
再び雫宮の声がする。
「妹も、見てる」
「・・・ふふ、そっか。最愛の妹が見てくれるんだね」
「最愛の兄はもういない、けど・・・最愛候補の義兄は、見てる」
・・・あれぇ?
雫宮ってもっとこう、ツンツンな子じゃなかった?
何語子にも動じないクールな女の子で人間不信で無口無表情で・・・え?
ツンツンじゃなくてツンデレだった?
で、今はデレの時間だったり?
「さ、帰ろう」
「・・・ん」
「帰ろー!」
日が傾く時間帯の道。
放課後のデートを思わせるような夕日を背景にして
伸びた影の距離が、少し近くなったような気がした。
〈side 葦零 END〉