美形義兄×5! ~人間不信な姫の溺愛生活~

前を見て雫宮は玄関のドアを開ける。
「アジトなの?」
「殺夜のスマホの位置情報だと、昔使ってたアジト」
「GPS・・・?」
「ああいう電話があった時にすぐに駆け付けられるように」
信頼してるんだな、と醜い嫉妬が沸き上がる。
・・・おっと、今出すべき感情じゃないな。
スルリスルリと狭いところを猫のように移動する雫宮。
必死にそのあとを追うと。
「・・・ここ」
1つの古くて大きい倉庫を指差す雫宮は可愛いけど、背景が可愛くない。
ギィ、と音を立てて開いた扉と・・・。
色んなトコロに血が飛ぶ壁、床。
「姫!来んのの早いな!早速やけど・・・」
「はいはい」
雫宮は慣れたように1人の男に近づく。
「涙悪」
涙悪、と呼ばれたのはさっきまで無双していた男。
関西弁男ともう一人に敬語男だ。
「姫様っ・・・」
「戦わなくていいよ」
「ですが・・・っ。もし姫様が攫われたら・・・!」
男の気持ちも分かる。
俺もきっと暴れていただろう。
「涙悪が暴れてる間に私が攫われたら?」
「っ!・・・そうですね、俺が間違っていました」
ぎゅっと手を握る男。
きっとさらわれて好き勝手される雫宮を想像したんだろう。
ポタリ、と。
倉庫の床に紅い液体が落ちる。
「・・・涙悪」
名前を呼んでハンカチを渡す雫宮。
おそらくだけど詰めが食い込んで出ただろう血。
相当怒っているのだと分かる。
「喰乃」
「姫!」
雫宮が会話するのと同じくらいの声量で誰かの名前を呼ぶ。
それなのに50メートル以上向こうにいた男はピクリと反応し、駆け寄ってきた。
・・・超人?
「喰乃、獣火(じゅうひ)いる?」
「・・・なんで」
「獣火に頼みたいコトがあって。喰乃には一緒に戦ってほしいんだけど」
「わかった!獣火ー!姫が呼んでるー!」
喰乃という焦げ茶色の髪をした少年が走って行く。
そして一瞬で走ってきた黒髪の男。
「姫、お呼びですか?」
これはまた忠誠心が高そうな男だ。
「2人を観客席に。邪魔になるから」
「了解です」
雫宮、今日はよくしゃべるな。
いや、この仲間たちとはいつもそうなのか。
こうして俺たちは獣火の無言の圧に耐えられず、観客席に向かった。
〈side 鈴蘭 END〉