美形義兄×5! ~人間不信な姫の溺愛生活~

「私は一時期体がすごく弱くて、少し動けば酸欠になったし、貧血にもなりやすかった。それを自覚してたけど・・・私は無理に動いた」
ぎゅっと握られた拳。
手は赤いを通り越して真っ白になっていて、消えてしまいそうで怖い。
「車に撥ねられかけたの。ちょうどその時に、学校帰りのお兄ちゃんが通りかかった」
その後そうなったのかはなんとなく想像できる。
「私を庇って轢かれたんだ。病院に運ばれてる時もずっと、私の名前を呼んでた。お父さんの態度が悪くなったのは、そこから」
・・・そして、きっともそこで感情を失ったんだろう。
ジワリ、と雫宮の瞳に涙が浮かぶ。
「自分ってなんなんだろって考えたら分かんなくなって、なにも信じられなくなったっ・・・」
雫宮の、人間不信が始まった出来事。
なんて、声を掛ければいいんだろう。
慰めなんて、彼女は望んでいない。
傷口を抉るような真似はしたくない。
葦零も目を瞑って考えている・・・寝てないよね?
その時。
~~♪♪
優雅なクラシックが流れた。
音をたどっていくと、雫宮のスマホ。
「もしもし」
『っ姫?!助けてくれ!』
スピーカーにしてないのにも関わらず男の声が聞こえる。
ひめ、と雫宮を呼んだ男・・・この声、あの時あった2人組の関西弁男?
俺と葦零が視線を向けているのに気づいたのか、雫宮はスマホをテーブルに置いてスピーカーにしてくれた。
きっと、今までの雫宮だったらこんなコトしてくれないはず。
それは少なからず、俺たちを信頼してくれてるってコト。
「なにかあった?」
『大変なんや!姫をさらって好き勝手するって叫ぶ奴らが・・・!!』
「・・・それもう言っちゃってるよね?」
『・・・残念やけどな。このままじゃ死人が出るで!』
男なのに女に助けを求める。
なんて情けないと思ったものの、関西弁男の強さは明確だ。
下手に煽らないほうがいいだろう。
「・・・はぁ、わかった。すぐ行くから抑えといて」
雫宮は電話を切ってソファーを立つ。
「俺も行っていい?」
「僕も」
俺たちも立ち上がると、雫宮は少し悩んでから頷いた。
「現実を見せるいい機会か・・・」
ぼそりとなにやら呟くと、さっさと自分の部屋に向かう雫宮。
数十秒で戻ってきた、ものの・・・。
「なにそれ可愛い」
ラフなスーツ。
お嬢様みたい・・・。
「・・・行くよ」