美形義兄×5! ~人間不信な姫の溺愛生活~

「雫宮?」
目が覚めたのか。
「鈴兄は、笑ってないと。兄弟たちが心配する」
ドレスから着替えたのか、ゆるっとしたロンTを着た雫宮がじっと俺を見つめる。
「雫宮も笑ってくれると嬉しいなぁ」
冗談交じりに言うと。
「・・・っ」
その瞳がふっと緩くなる。
口角がゆっくりと上がり、俺は息をのんだ。
笑って、る。
雫宮が・・・控えめに、笑ってる。
    
「・・・2人も、笑って」
    
そう言って葦零にも視線を向ける雫宮が可愛い。
雫宮の笑顔を見たのが俺と葦零だけだって知ったら伊毬たちは嫉妬に狂うだろうなぁ。
「うん」
葦零がいつもの可愛らしい笑顔を浮かべる。
それに対して、雫宮は首を横に振った。
「ホントの、笑顔」
雫宮も、気づいていた。
「あはは」
家族以外で気づいた人はいないはず。
だからか、葦零は苦笑いを零している。
「じゃあ」
朔冴、ごめんねー・・・と謝った後、葦零は儚げな笑みを浮かべた。
「・・・それで、いい」
雫宮は葦零の笑顔を見て、満足そうに頷いた。
「鈴兄も」
「・・・うん」
いつも通りの笑顔を浮かべる。
ただ、いつもと違うのは・・・。
ご機嫌取りの作り笑顔じゃなくて、本心からの笑顔。
「・・・さて、じゃあ雫宮は例のお兄ちゃんについて訊かせてくれるかな?」
すぐに話題を変えて雫宮に訊く俺。
葦零も気になるのか、じっと雫宮を見つめている。
「・・・ん」
視線に耐えられなくなったのか、雫宮は仕方なそうにソファーに座った。
「義姉ができる前・・・実母がまだいた時に、3つ上の兄がいた。名前は掬羽(すくう)。元気でおおらかで、誰からも好かれる人気者」
3つ上・・・生きてたら高1。 
俺と同い年か・・・。
「小学生の頃は私よりも強くて、頼りになる理想のお兄ちゃん。頭もよかったから、お父さんはお兄ちゃんを跡継ぎの道具としてしか見てなかった」
・・・掬羽さんは、それが分かっていて明るかったんだろうか。
分かってて、妹を愛したんだろうか。
「ずっと笑顔で、私のコトばっかり気にしてくれて、欲しい言葉をくれて、優しくて、私の生きる意味だった」
淡々と話す雫宮の瞳は感情がうかがえない。
・・・いや、これは・・・怒ってる?
「お兄ちゃんは『ずっと一緒にいる』って言ってくれた。・・・なのに、私を置いて逝った」
兄の死に対する怒り、だろう。
後悔しているような、自分を責めるような表情。