消え入りそうな声で呟く。それ以外に口にできる言葉が見つからない。
 煌凌もまた口を噤むほかなかった。そう言われてはもう、この場を覆しようもない。

「続きは尋問で聞くとしましょう。ふたりを連行します」

 微塵(みじん)気後(きおく)れしない悠景は朗々(ろうろう)と言い、外で待たせていた兵らを呼び込んだ。
 目配せをして命ずると、彼らは春蘭と宋妟をそれぞれ連れ出していった。いずれも抵抗することなく、連れられるがままに歩いていく。
 鳳家の、もとい春蘭の最大の秘密を、弱点を暴いてやったという達成感と高揚感に見舞われ、悠景は得意気な態度で言を繋ぐ。

「陛下、貴妃殿を桜花殿に禁足(きんそく)します。それと、尋問の全権を俺に与えてください」

「…………」

 半ば放心状態に陥っている煌凌の耳には、その声が聞こえているのか否か定かではなかった。
 悠景は「陛下」ともう一度呼びかける。

「王としての素質が問われるときですよ。ご英断(えいだん)を」

 そう言うと、彼はゆっくりと顔をもたげた。曇った深刻な表情で暫時(ざんじ)黙していたが、やがて観念したように頷く。

「……分かった。ただし、ひとつ約束するのだ。春蘭に手荒な真似をしたら許さぬ。指一本でも触れたら、そのときはそなたとて容赦せぬから肝に(めい)じよ」



     ◇



 堂での騒動や夢幻と春蘭が連行された話を、莞永からひと通り聞き及んだ朔弦は叔父の執務室を(おとな)った。
 憤る感情をあえて隠すこともなく扉を開ける。
 ちょうど宮殿へ戻り、尋問やその手続きへ向かおうとしていたところであったようだ。彼の行く手を阻むべく立ちはだかる。

「何を考えておいでですか」

 静かに(たぎ)る怒りの赴くままに、声を低め問い詰めた。
 悠景は何ら悪びれることなく、むしろ何か問題でもあるのかと言わんばかりに朔弦を見返している。

「言わなかったか? 隆盛(りゅうせい)の鳳家をこのまま野放しにしておくわけにはいかねぇだろ。だから、俺が世直しするんだよ」

「鳳家は蕭家とはちがいます。そのことはもう、重々分かっておいででしょう。叔父上は本質を見失っている」

 これまでは叔父のため、謝家のためと、当主である悠景の意を必ず尊重してきた。
 策を講じ、力の限りを尽くすことは朔弦の役目であり使命であったが、いかなるときも最終的に大きな決断を下してきたのは悠景である。
 命運は彼とともにあり、そこに疑念を抱く余地などなかった。

 しかし、こたびばかりは天と地がひっくり返ったとて賛同できる話ではない。
 朔弦は厳しい口調で反駁(はんばく)した。

「いま、陛下やこの国を支えているのは間違いなく鳳家です。それを邪視(じゃし)するのは、欲と感情に振り回されている証拠にほかなりません」