それから一時も経たないうちに、春蘭は目を覚ました。
芙蓉の淹れたあたたかい茶を含む頃には血色と色艶が戻り、体調とともにすっかり顔色もよくなっていた。
「心配かけてごめんね。みんな、ありがとう」
以前、帆珠主催の茶会で倒れた折のことを何となく思い出しながら言った。
またしても心配や迷惑をかける羽目となったことは申し訳ない限りだが、こうして心から案じてくれる人がいるということが何たる幸いかを噛み締める。それも、ひとりではないとは。
とはいえ、その顔ぶれの中には春蘭にとって少々意外な人物も紛れ込んでいた。煌凌である。
「……でも、どうしてあなたまで?」
「当然であろう。そなたは余の女だ」
「な……っ」
あまりにあっけらかんとしていて、一瞬にして言葉に詰まった。引いたはずの熱が瞬く間に蘇ってくる。
色事に疎い春蘭を、裏表のないたったひとことで動揺させてしまうとは大した男だと、櫂秦は口笛を吹きたい気分になった。
「や、やめてよ。ここでまで“ふり”なんていらないから! 下りてってば」
「なにゆえだ? 我らは夫婦ではないか」
寝台に腰かける煌凌をぐいぐいと押すが、微々たる春蘭の抗議はまったくもって取り合われなかった。
さらに言い返そうとしたところ、こほん、と存在を知らしめるように朔弦がわざとらしく咳払いをする。
「仲睦まじいのは結構ですが、春蘭が目覚めたことに安心する時間はおしまいです」
ふとその眼差しが厳しい色を宿し、咎めるように春蘭へ向く。
捉えられた途端に、さーっと青ざめた顔が強張った。
「……さあ、聞かせてもらおうか。言い訳をじっくりとな」
────それから、春蘭が意識を失っていたのと同じくらいの間、朔弦にはこってりと絞られる羽目になった。
事前の言いつけを破り、宮廷を抜け出したことについて容赦のない叱責を受ける。
春蘭に至っては正座していた足が痺れ、しばらく立ち上がれないほどで、とんと懲りることになったのであった。
◇
夜半、密かに桜花殿を抜け出した橙華は戸部へ向かい、人目を忍んで文禪と会していた。
倒れた春蘭を王が直接見舞ったことや、桜花殿内での様子を聞き及ぶと、文禪は信じられない思いで瞠目する。
太后による春蘭への処遇にすっかり甘心していたが、どうやらそれしきのことではかすり傷程度の痛手も負わせられないようだ。
王の寵愛は鳳家に留まらない。
春蘭自身に執心しているのだとしたら、想定以上に危ぶむべき事態と言える。
側室という立場を利用し、夜をともにし始めたら────王の方が入れ込んでいるのであれば、悠長に構えてなどいられない。
「……橙華」
「は、はい。何でしょう……」
「そなたがその手で婕妤を殺してしまえ」



