侍医のにこやかな表情と言葉を受け、煌凌のみならずその場にいた誰もが安堵した。
特に紫苑は不安から強張っていた肩の力を抜くと、わずかにたたらを踏んだほどである。
薬湯の用意のため侍医が桜花殿をあとにすると、入れ替わりで朔弦が参殿してきた。
幸か不幸か倒れたことにより、春蘭は太后の下した“罰”から解放されることとなった────弁えるべき潮時であると朔弦が説いてみせると、生意気な鳳姫を黙らせたという事実に満足したらしく、太后はあっさりと引き下がったのであった。
────それから春蘭が目覚めるまでの間、煌凌は片時もそのそばを離れようとしなかった。
寝台の傍らに運んだ椅子に腰を下ろし、そっと伸ばした手で遠慮がちに頬に触れる。
普段以上に白い肌は見た目に反し、じんわりと確かな熱を持っていた。むしろ熱いほどに。
しかし、微弱な呼吸と身体は小さく震えている。
「寒いか……?」
布団を引き上げてやると、ふと思い立ったように自身のてのひらを見やった。
少し苦しそうに眠る彼女と見比べ、躊躇いがちに再び手を伸ばす。
冷たいてのひらを額に添えてやる。熱も苦痛もすべて、触れたところから吸い込まれていけばいい、と思った。
冷えた手の温度が心地よかったのか、春蘭の顔がいささか和らぐ。
労るように、慈しむように、煌凌はただ静かに眺めていた。
「……まさかあれも“ふり”じゃねぇだろ? よかったよな、王サマに大事にされてて。おまえのお嬢さま離れも捗るな」
間仕切りの奥にある寝台の方を見やり、櫂秦は一緒に円卓を囲む紫苑に言った。
気を遣って離れた位置にいても、彼の全意識が春蘭に向いていることは明白である。
これまでは紫苑のものであった居場所も役目も、いまは煌凌が果たしていた。
本当は心の底から春蘭を案じ、それをこらえることなく表に出し、触れたかったはずだ。
自制しているのは、煌凌が王であることだけでなく、朔弦に言われた言葉が響いたせいであった。
『……それは結局のところ、春蘭を信用していないということだな』
触れたいのは、春蘭を安心させたいというよりも、自分自身が安心したいからなのではないだろうか。
夢幻や櫂秦がたびたび呈してきたのは、こういうことであったのかもしれない。
いまになって初めてすべてを理解するに至った。



