開口一番に彼が口にしたのはそれだった。
自身の処遇や今後について憂いてもおかしくないのに、真っ先に気にかかったのは商団のことであったのだ。
そのことに少なからず気圧された櫂秦に構わず、珀佑はにこやかに続ける。
「楚家も復興に向かうだろうね。まずは解雇した成員たちを呼び戻して……地道に“信用”を売るところから始めたらどうかと思うんだけど、どう?」
「え。あ、ああ……」
いまのいままで自身が雪花商団の頭領である自覚すらも失念していた櫂秦は、彼の語る展望をどこか他人事のように受け止めた。
半ば反射的に返したのは、まったくの生返事である。
「おいおい、しっかりしてくれよ。これからが大事な時期なんだからさー」
いつもと変わらない穏やかで暢気な態度ながら、割と本気で咎めている気配があった。
下手をすれば、否、下手をせずとも、商団や楚家の行く末を最も案じているのは珀佑かもしれない。
頭領である自分より、直系である自分より、資格がないと冷遇され続けてきた彼が、誰よりその立て直しに文字通り身命を賭してきたという事実は、本家にとっては皮肉もよいところだろう。
「……なあ。おまえ、これからどうすんの?」
何気なく尋ねたつもりが、思いのほか神妙な声色になった。
気にとめることもなく珀佑は「そうだなぁ」と考えるように視線を上向ける。
「旅にでも出ようかな」
柊州に留まる必要も縛られる理由もなくなった。
目的もなく他州を巡るか、あるいはいっそ国を出るというのも悪くはないかもしれない。
そうすれば、しがらみはほどけるだろうか。
櫂秦や芳雪の邪魔にならずに済むだろうか。
「…………」
櫂秦は何も言えなかった。
彼がいっそう明るくそう言ったわけに気づいていながら、その気遣いを無駄にするほど正直な反応をしてしまう。
(本家や俺たちのせいで……)
悔しげに唇を噛み締める。
自分は当主であり頭領でありながら、家門や商団を気にかけてこなかった。
紅蓮教に教徒として潜入するなどという大胆かつ危険な策を思いつくにも至らず、解決したいまも真っ先に考えたのは商団のことではなかった。
改めて思う。やはり、自分が当主たる資格も頭領たる器もない。
そもそも雪花商団を一度潰したのは櫂秦の落ち度であり、血筋ばかりを尊重する楚家の思想の限界にちがいない。
ややあって、櫂秦は口を開く。
「……兄貴がなってくれよ、当主」



