それから、ふと俯いた。
「余は……ちゃんと春蘭や元明を守れているか?」
ぎゅ、と震える両手を握り締める。
この頼りない手で繋ぎ止められているだろうか。
大切なものは、もう二度と失いたくない。孤独な日々に逆戻りなどしたくない。
そのためには、隙間ができないよう力を込めていなければならなかった。
「そうですね、はっきり言って期待以上でした。これまでのばか王ぶりがすべて演技かと思うほど」
本当に朔弦は“はっきり”とものを言う。しかし、逆にそれは進歩であった。
これまでの彼は煌凌を勝手に見限り、ただ“玉座に座る者”に対しての儀礼的な態度を貫いてきた。
期待も寄せなかったため、諌言などしようとも思わなかったし、そもそも近づきたいとすら思わなかった。
それが、関わっていくうちに変化していった。叔父の意に沿って渋々、という具合でもない。
少しは見直してくれたのだと、いまなら信じられるような気がして煌凌は素直に嬉しかった。
「余も自分に驚いたが……春蘭たちを守るためだと思うと、不思議と力が湧く」
恐れも不安も飛び越え、不思議と勇気がみなぎってくるのである。
春蘭の、そして元明の、自分を守ってくれようとした強い意志を目の当たりにしたからかもしれない。
「そうですか」
朔弦からの返答は短かったが、満足そうであった。
一連のやり取りを黙って見聞きしていた清羽も、つい喜ばしそうに笑顔をたたえる。
こく、と頷いた煌凌ははたと顔を上げた。
「して、ここへは何用だ?」
いま気がついたが、朔弦はいつもの黒鎧をまとっていない。
今日は文人然とした上品な装いをしている。
「出立のご挨拶に」
「どこかへ行くのか?」
「柊州です」
首を傾げる煌凌に対し、端的に答えた。
衝撃の人事がその耳に入っていないところを見ると、やはり容燕らの策略に間違いない。
「左羽林軍の将軍職を罷免され、新たに柊州州牧に任ぜられたのです」
「なに?」
煌凌は訝しむように眉を寄せる。
今日の朝議に容燕が欠席していたのは、その件について根回しを行っていたためだったのであろうか。
「…………」
それより、と俯いた。
朔弦がそばからいなくなってしまっては、何を指針に進んでいけばよいのだろう。
元明が戻ってきてくれるとはいえ、状況は結局、以前と変わらない。
「……まさか、不安だなどと言い出しませんよね?」



