桜花彩麗伝


 しかし、楚家を捨てきれない兄はその行く末をとにかく案じており、商団の再興(さいこう)を諦めていない。
 頭領である櫂秦以上に強固な信念を持ち合わせているかもしれない。

 だからこそ危険を承知で柊州に留まっていると思うが、その消息は依然として掴めていないままであった。
 生きているのかどうかさえ分からない。

「もしかして、夢幻なら何か情報を掴んでたりしないかしら……。紅蓮教についても」

「むげん? 誰だ?」

「とてつもなく聡明(そうめい)で強力なお嬢さまの味方だ。光祥殿が去ってしまいましたし、我々で現状報告もしたいところですね」

「ほーん……じゃあ、宮廷の抜け道探すか。一時なら抜け出してもバレねぇだろ」

 暢気にも櫂秦がそんなことを言ったとき、三人は思わぬ人物と邂逅(かいこう)を果たした。

「あいつ……」

 嫌悪感を隠そうともせずに櫂秦が呟くと、彼がゆるりと振り返る。航季であった。

 彼も彼で不機嫌そうな表情をしており、春蘭を見るなりいっそう不愉快そうに眉を寄せた。
 苛立たしさを前面に押し出したまま歩み寄ってくる。

 紫苑は咄嗟に一歩踏み出しかけた。
 春蘭を庇おうとしたはずが、なぜか足は後方へと下がってしまう。後ずさる形となった。
 決して、怯えたわけでも恐れおののいたわけでもなかったのだが。

 その行動を一瞬訝しんだものの、代わりに櫂秦が春蘭の前に歩み出た。

「何か用かよ」

 威嚇(いかく)でもするかのように鋭い視線と声色を向けるが、航季は嘲笑気味にふっと笑う。

「おいおい、上官に向かってその口のきき方は何だ」

「それを言うならおまえの方こそ礼尽くせよ。王サマのお妃だぞ」

 春蘭を示しつつ言を返すと、航季も一瞥(いちべつ)した。
 ()が悪くなったのか、小さく舌打ちをする。
 鳳家の姫になど、死んでも礼を尽くしたくはない。何たる屈辱であろうか。

「……鳳家の、たかが()()()のくせに」

 伏せた航季が低く呟いた。

「……え?」

 春蘭は思わず聞き返す。櫂秦も不思議そうな表情で目を(しばたた)かせた。

「仕方がないか。女のおまえにはこんなやり方しかできない。生き残ったのがおまえでまだよかったのかもしれないな」

「何を……」

 言っているのか、尋ねる前に、厳しい声が尖った空気を揺らす。

「それ以上、意味の分からないことをおっしゃるのであれば不敬罪に問いますよ。────蕭尚書」

 航季の不遜(ふそん)な態度を咎めたのは紫苑であった。
 凄むような気迫に怖気(おじけ)づいたのは、航季だけでなく春蘭たちも同様であった。
 彼がこれほどまでに(いきどお)ったところを初めて見た。もしかすると、怒りとはまた異なる感情なのかもしれないが。

「……ふん、おまえらの魂胆(こんたん)は分かっている。そう簡単に蕭家を倒せると思うなよ」