州牧に権限があるとは思えなかった。
だからこそ容燕は、そこへ自分を追いやったのだろう。
中央の閑職の方が恐らくましである。
また、ただ自分だけが疎まれるのであればよいが、そうでなければ朔弦が柊州へ赴いている間に謝家が傾くかもしれない。
その点は気がかりであったが、悠景を信じるほかになかった。
いくら理不尽な人事といえど、いち公人でしかない朔弦に拒む権限はない。
「支度する。おまえは修練場へ戻れ」
息をつき、すっかり衝撃から立ち直った朔弦が言う。
突然の出来事ではあったが、考えてみれば州牧就任はかえって好都合かもしれない。
結果的に柊州の問題に着手しやすくなり、春蘭のなそうとしていたことを代わりに請け負うことができる。諦めなくて済む。
(……舐められたものだな)
────蕭家には。
中央から追い出し、権威も実権もない柊州州牧に任ずれば、自分を押さえ込めると本気で思っているのだろうか。
つい、嘲るような冷ややかな笑みがこぼれる。これほど腹が立ったのは久々であった。
(そんなわけがないだろう)
◇
煌凌や朔弦が桜花殿をあとにしてほどなく、春蘭は紫苑と櫂秦を伴って後宮を出た。
宮中を散策しながら、おもむろに櫂秦が呟く。
「……まー、仕方ねぇよ。朔弦の言ってたことが正しいと思うし」
彼らもまた、扉越しに会話を聞いていたようだ。肩を落とす春蘭を励ますような調子であった。
「それはそうかもしれないけど、このままじゃ……」
異論はないが、割り切れない。柊州や楚家のことを諦めなければならないのは、不本意でしかなかった。
落ちた沈黙を、ふと紫苑が破る。
「……櫂秦、兄君の手がかりは?」
「変わらずだ。どうしてんだろうな」
一見、大して興味なさげに答えるが、恐らく片時も気にかけなかったときはないであろうことが窺えた。
本家や分家には既に居場所がないため、戻るとは思えないが、妃選びがあのような形で終幕したことで、またしても兄への風当たりが強くなりそうな予感がした。
決して兄や姉のせいではないのに、芳雪が王妃になるという最良の結果を得られなかったことが、楚家の連中は不服であるはずだ。
無関係の兄が理不尽にその不満のはけ口にされる、というのがお決まりの展開であった。



