その強い眼差しを見た朔弦が思わずため息をついたとき、巻子を手にしたひとりの下吏が歩んできた。
「謝朔弦さまですか?」
遠慮がちに言い、首肯を得ると頭を下げる。
「吏部より任命書を預かって参りました」
差し出された巻子を見て、朔弦は目を細めた。
航季も言っていたことではあったが、あまりにも早い。
罷免されてから別の官職に再任されるまで、異常なほど迅速で間がなさすぎる。
吏部は朔弦の罷免を事前に知っていたにちがいない。そうでなければ、この速度はありえない。
朔弦の罷免は航季の、いや容燕の指示なのであろう。
いまさら自分を排するとは、何がそれほど気に障ったのか。
いったい、どのような閑職に追いやられるのだろう。
吏部が介入してくるということは、文官ではあるのだろうが。
そんなことを考えながら、半ば諦めたように巻子を受け取り、中をあらためた。
「これは……」
朔弦の瞳が揺れた。さすがに予想外であった。
「失礼します!」
いても立ってもいられず、その手にあった任命書を横取りした莞永は、書き連ねられた文字を急いで目で追う。
はっと目を見張った。
「し、柊州州牧に任ずる!?」
一概に左遷とも言えないような、衝撃的な人事である。
あまりに驚いて声に出してしまった。
咄嗟に朔弦の様子を窺えば、珍しく彼からも戸惑うような視線が返ってくる。
何かの間違いなのではないか、と莞永は任命書を運んできた吏部の下吏をまじまじと眺めてしまった。
「あ、お、お祝い申し上げます……?」
彼はこの人事を昇進と解釈したらしく、それでも自信なさげにそう言った。
一礼を残し、逃げるようにそそくさとこの場を去っていく。
「将軍、これは……どういうことなんでしょう」
困り果てたように莞永が呟いた。
「……都落ちさせたいのだろうな」
妃選びやそれに並行して起きた事件において、朔弦はかなり露骨に王や鳳家の肩を持った。
お陰で容燕の狙いのほとんどが破綻したはずだ。
それを受け、自分の存在が邪魔になったのだろう。あるいは脅威に。
そのため王や鳳家から引き離したかった。悠景とも離別させたかった。
それに、いくら州牧とはいえ、任地が柊州では話が変わってくる。
春蘭によれば、現在の柊州は無法地帯だとか────。



