「あやつまで柊州送りにして、ふたりで何か企むようなことがあっても鬱陶しいからな」
「左様ですね……。では、謝朔弦を柊州州牧に任ずる手配をしましょう。現職の州牧であるご子息は、州尹という運びで?」
州尹は州府の次官であるが、現在は空席である。
そもそも現州牧の榮瑶自身が“お飾り”であるために、州尹など必要がなかった。
「ああ……」
ふと容燕の顔から笑みが消える。榮瑶の話題に、面倒そうに顔をしかめた。
実子でありながら、まるで興味なさげに目を伏せる。
「あれはどうでもいい。そなたに任せる」
それだけ言うと、蓋碗を置いて立ち上がる。
あまりの態度の変容ぶりに惑ったものの、彼も同じように立ち上がり、容燕とともに外へ出た。
どうやら榮瑶の話題が不興を買ったようだ。
容燕と付き合いの長い吏部尚書は、榮瑶と会ったことはあるものの、それはまだ榮瑶が幼い頃であった。
当時は容燕もいまほど彼のことを疎んでいなかったような覚えがあるが、いったい何があったのであろうか。
門へ向かう途中の庭先で、容燕は悠然と振り返った。
険しい表情で吏部尚書を見据え、厳然と口を開く。
「帆珠が後宮入りするより先に事を成し、王や鳳家の気概を削ぎたい。航季が朔弦を罷免したら、即座に任命書を持ってくるのだ」
◇
桜花殿をあとにした朔弦は途中、莞永と合流した。
ふたりが左羽林軍へ戻ったとき、なぜか錦衣衛の兵に取り囲まれる。
「な、何の真似だ。こちらは謝将軍だぞ!」
向けられた兵たちの険しい眼差しと剣先に怯みつつも、莞永は窘めるように言った。
そのとき、執務室の扉が開く。
「“将軍”?」
出てきた人物はそう言い、せせら笑いながら歩み寄ってくる。兵部尚書の航季であった。
「もうそう呼ばれることはなくなる」
錦衣衛の兵たちは彼が通る道を素早く空けつつ、朔弦たちには油断なく剣を向けていた。
航季が一枚の紙を突きつける。
それを目にした莞永は息をのんで瞠目した。
「罷免……!?」
そこには確かに“罷免通知”と書いてある。
朔弦は冷静さを損なわなかったものの、怪訝そうに航季を見返した。
「……どういうことです?」
「ここにある通り、おまえは罷免だ。左羽林軍を辞してもらう」
航季は通知書を叩きつけるように投げ捨てる。まるで答えになっていない。
「じきに吏部から通達が来るだろう。ここで待っていろ」
詳しく説明する気などさらさらないらしく、それだけ言うと早々に踵を返した。
剣をおさめた兵たちを伴い、去っていこうとする。
冗談ではない。そんなわけの分からない言い分で引き下がれと言う方が無理な話である。
「お待ちを。尚書の口から理由を聞かせてください」
「黙れ! 四の五の言うな」
当然引き止めた朔弦であったが、航季は乱暴に突き返して取り合わなかった。
「心当たりはあるだろ? おまえは何も清廉な武将じゃない。叔父のため、謝家のため、色々なことを仕出かしてきたはずだ」



