桜花彩麗伝


 納得したように櫂秦が頷くと、控えめに紫苑が尋ねた。
 “わたしたち”に自分が含まれていると気づいた櫂秦は、彼と同じように朔弦を見やる。

「おまえたちは禁軍の兵になれ」

 その言葉に、紫苑は思案するように目を落とす。
 櫂秦は「禁軍?」と聞き返し、はっとして文句を垂れた。

「禁軍って言ったら……超下っ端じゃん!」

 兵部が束ねる軍は主に、左右羽林軍、錦衣衛、禁軍である。
 そんな宮中の兵士は、“十六衛(じゅうろくえい)”と総称する。

 錦衣衛は兵、刑両方の権限を有するためにやや特殊であるが、十六衛に含まれていた。
 左右羽林軍は基本的に王や太后の護衛にあたるため、選び抜かれた精鋭(せいえい)の集まりである。

 一方で禁軍というのは、そのいずれにも属していない、言わば“落ちこぼれ”の集団である。

 ほかとは異なり、武科挙(ぶかきょ)を受ける必要もなく、志願すれば基本誰でも入軍することができる。
 そんな特性により権限は決して大きくなく、官位もないため、ほとんど烏合(うごう)(しゅう)なのである。
 兵とは名ばかりのごろつきも多かった。

「何でだよー……。おまえの伝手(つて)で羽林軍に入れてくれよ」

 櫂秦は別に出世に興味はないのだが、禁軍に放り込まれるのは不服であった。
 落ちこぼれやごろつきと一緒にしないで欲しい。

「確かに、腕前からすれば羽林軍でも十分やっていけるだろうな。だが、それには武科挙を受ける必要がある」

 朔弦自身は清廉潔白(せいれんけっぱく)謹厳実直(きんげんじっちょく)というわけではないが、それでも縁故(えんこ)というものを忌避(きひ)していた。
 つけ入る隙を自ら生むことになる上、その事実も人も足枷(あしかせ)となりかねないからだ。

 そのため、櫂秦の申し出を取り合わなかった。最初からそんな選択肢はない。

「それが?」

 櫂秦は食い下がる。武科挙くらい、一発で通過できる自信があった。

「科挙は実施される時期が決まっている。受けたいから、と思い立ってすぐに受けられるものではない」

 例年、(ぶん)科挙も武科挙も冬に実施される。
 いまは初夏にさしかかったところだ。冬になるまで待ち続けるわけにもいかない。

 王である煌凌が(めい)を下せば臨時でとり行うことも不可能ではないが、彼らのためだけにそんなことをすれば問題として取り沙汰される。

「それに────」

 朔弦はそう続け、なぜか紫苑を見据えた。

「武科挙を受けずに済む方が何かと都合がいい……ということもあるんじゃないか?」