桜花彩麗伝


「……なるほどな。だから春蘭を(めと)る必要があるわけか」

 腑に落ちた、といった様子で頷きながら呟く櫂秦。
 あまりに突飛(とっぴ)荒唐無稽(こうとうむけい)だと思われた話も、そういうことであれば納得だ。────というか。

「おまえ、ほんと頭いいな。妙案としか言えねぇ」

 櫂秦は素直に朔弦を賞賛する。
 絶望的と思われた状況から、即座に打開策を打ち出した。
 敵に飲まれる前に、完全に道を断たれる前に、活路を見出した。
 彼がいなければ、万策(ばんさく)尽きて蕭家に負かされていたことだろう。

 櫂秦のもの言いはずけずけと無遠慮だったが、紫苑も同感であった。
 当初のことを思い返せば、彼が味方になってくれて本当によかった、と思わずにはいられない。

「でもさ、何で婕妤? どうせなら“貴妃(きひ)”とかにすりゃいいのに」

 櫂秦が続けて言う。
 “貴妃”は正一品────最も高位の側室に与えられる称号である。
 特に鳳家の立て直しを狙うのであれば、春蘭には安定した地位に就いてもらった方が堅実(けんじつ)だろう。
 正三品の“婕妤”も高位ではあるが、中途半端と言わざるを得ない。

「事情が複雑だからね……。とりあえず最初は、控えめに出て様子を見なければ」

 答えたのは元明だった。
 櫂秦も何となく理解が及ぶ。
 いまのところ元明は罪人として扱われているため、春蘭は“罪人の娘”と批難される可能性があった。
 というより、蕭派はここぞとばかりにそれを持ち出すにちがいない。

 そんな春蘭を王の一存で“貴妃”にまで持ち上げれば、対処しきれないほどの反発が予想された。
 鳳家を救済するための措置なのに、かえって追い込まれる羽目になる。
 そのために“婕妤”の位が適当であると言えた。
 自衛できるほどの力を持ちながらも、余計な警戒心を煽らずに済む。

 無論、この先、位が上がっていくことはあるだろう。それも朔弦の狙いのひとつであった。
 何ごとも肝心なのは最初だ。
 春蘭の後宮入りに連中は大いに不満を抱くだろうが、正三品なら、と折り合いをつけ油断する。

 そんな中、滞りなく春蘭が位を上げていけば、よい意味で脅威になれる。
 元明の名声や地位も取り戻せる。
 正三品であれ春蘭を側室に迎えることには反発を食らうだろうが、十分に収拾可能であると思われた。

「なるほどな」

「……わたしたちは、どうすれば?」