桜花彩麗伝


 太后はやや気圧(けお)されたものの、言わんとすることは理解できた。
 妃選びを続行するとなると、鳳家の参加資格は剥奪(はくだつ)され、実質ふたりでの最終審査を迎えることとなる。
 残る候補者は楚家の芳雪と蕭家の帆珠だ。

 虞家と寧家は既に没落(ぼつらく)を免れず、王妃たる家柄の条件を満たせなくなった。
 そのため、珂雲は失格。自害した璃茉も当然参加することはできない。
 人数的に第二次審査を行う必要はなくなり、最終審査のみで王妃が決することとなる。

 そして、そうなった場合、結果は出ているも同然である。
 もはや春蘭という邪魔者は消えたのだから。

「……そうだな。続けさえすれば、王妃には帆珠が迎えられる」

 王も鳳家という味方を失い、太后や容燕に反発する気力など既に()せているであろう。
 また、たとえば王が春蘭の代わりに芳雪を推したところで意味はない。
 楚家はそもそも蕭家と渡り合える存在ではないからだ。

 容燕は口端を持ち上げ、髭を撫でる。

「では同意いただけたということで、主上にはわたしの方から申し上げるとしよう」

 容燕の言葉を、王は決して拒めない。
 拒もうものなら、即刻玉座から引きずり下ろすまでだ。
 いまの容燕に不可能はないように思えた。これまでで一番、そして誰よりも一番、天下に近い。

 本当の意味で王を傀儡(かいらい)にし、国を操ることができるかもしれない。
 ほくそ笑む容燕を見た太后は、同じように笑みをたたえた。

「……祝い申す。長年の野望の成就は目前だな」

 太后は笑みの裏に焦燥(しょうそう)をひた隠しにしていた。
 鳳家を追い込む提案をしたのは紛れもなく自身であったが、これでよかったのだろうか、という不安が徐々に膨らみつつあった。

 鳳家の一方的な零落(れいらく)は正直なところ、太后にとってひとえに喜べる事態ではなかった。
 妃選びも終わり、容燕にとって太后の利用価値がなくなれば、いつてのひらを返されるか分かったものではない。

 容燕に命運を握られているのは、何も王だけではなく、太后とて同じだった。
 決して表沙汰にできないような件を弱味として握られている以上、下手な行動は取れないのである。

 また、従順であるだけでは足らず、有能であることも示しておかなければならなかった。
 従順なだけでは、代替はいくらでも効く。