桜花彩麗伝


 朔弦の反応を窺うようで、それでいて固い意思が感じられるようでもあった。
 彼は小さく頭を下げる。

「────そのように」

 煌凌が言わなければ、自分がそう進言するつもりでいた。
 それが最速かつ最善の方法であろう。
 また、鳳家当主が罷免(ひめん)され、鳳家の名声に傷がつくことが危惧されるいま、煌凌が直々に鳳家令嬢を側室として迎えにいくことは、周囲へのよい働きかけにもなる。

 唯一、心配なのは、春蘭の気持ちであった。

 朔弦とどこまで情報の共有がなされているのかにもよるが、ほとんど内情を知らないであろう彼女は、まさか煌凌が自分を迎えにくるとは思いもしないだろう。
 しかも、有無(うむ)を言わせず後宮へ入れるのだ。つまりは強引に(めと)ることとなる。

 嫌ではないだろうか。
 仮に嫌だと言われても、ほかに選択肢はないのだが。
 煌凌の憂慮(ゆうりょ)するところを察し、朔弦は言う。

「さほど案ずることはありません。もともと春蘭にも、王妃になる覚悟があったのです。陛下の妃になること自体を拒むはずがありません」

 しかも、妃になる目的そのものはほとんど同じである。
 その婚姻に情は絡んでこない。形だけのものでしかない。
 納得したように、煌凌は頷く。

「……そうだな。では急ぎ、詔書(しょうしょ)をしたためる」



     ◇



 福寿殿からは(たの)しげな太后の笑い声が響いていた。
 円卓を挟み、容燕と茶を飲む太后は元明が罷免された旨を聞き、すっかり(えつ)に入っていた。

「思いのほかあっけなかったな。こうも抵抗を見せぬとは……こんなことなら、もっと早くに仕掛けておくべきだった」

「とんでもない。()いてはことを仕損じると言うもの。慎重に機が熟すのを待っていた成果ですぞ」

 容燕は言い、上機嫌で茶を(すす)る。
 こと、と茶杯(ちゃはい)を置くと、太后が口を開く。

鳳姫(ほうき)も大したことなかったな。審査では番狂わせが起き、どうなることかと思ったが」

 巧妙(こうみょう)に張り巡らされた謀略(ぼうりゃく)をかい潜り、見事に最高評価を勝ち取った春蘭。
 大いなる脅威になりうると思われたが、結局は父親とともに零落(れいらく)一途(いっと)を辿るほかないだろう。
 第一次審査の結果も、無に()したわけである。

「そのことですが」

 容燕は不意に笑みを消し、太后を鋭く見据える。

「妃選びはこのまま続行なされ」