桜花彩麗伝


 元明から視線を逸らしはしたが、はっきりとそう告げた。
 蕭派の(おみ)たちは歓喜に踊り出したい気分であったが、この場では目配せをし合い、ひっそりと笑むに留めておく。

「本来であれば、死罪を(もっ)て償わせるべきだが……宰相としての功績が大きいこと、鳳家当主であることを(かんが)み、このような罰を下す。誰であろうと、異論は認めぬ」

 煌凌はそう締めくくり、さっと踵を返した。
 見た目に最低限の威厳を保っているが、この場から早く逃げ出してしまいたいだけであった。

 煌凌が殿内へ戻ったのを見届け、朔弦は元明を見やる。
 彼はその場で膝を折り、蒼龍殿の方へ身体を向け、中にいる王にひれ伏した。

「────ご聖恩(せいおん)に感謝します」

 そう言うと、表情を引き締める。隙のない態度に戻っていた。

 満足気に頷いて笑った容燕は元明を見下ろす。
 やっと、この景色を見られた。
 やっと────この男の上に立てる。
 大口を叩いていたくせに、結局はなす術なく落ちぶれた。これ以上に痛快なことがあるだろうか。

 何もかもが思い通りに進んでいる。
 今後、栄耀栄華(えいようえいが)を極めるのに、何の障害もなくなった。
 あとは帆珠を王妃の座に就け、自身が宰相の席に座るのみである。

「…………」

 朔弦は、すっかり気をよくしている容燕を認めた。
 いまのところは、こちらを疑う素振りは微塵(みじん)もない。
 しかし、まだ油断は禁物である。このまま一気に事を進めなければ。
 踵を返すと、彼も蒼龍殿へと戻った。



 煌凌は几案(きあん)に手を置き、項垂(うなだ)れるような体勢でいた。
 淡々と歩み寄ると、彼もそれに気づいたが、顔を上げなかった。

「……陛下、ここからが勝負です」

 平板(へいばん)な声で告げる。煌凌は小さく頷いた。

 どれだけ早く、事を成せるか────すなわち妃選びの取り止めと、側室として春蘭を後宮入りさせるという目的を果たせるか。

 容燕が動き出す前に、完遂させなければならない。
 たったいま、元明という盾を失った煌凌は、丸腰で矢面(やおもて)に立っているのと同じなのである。
 元明に対し不当な処置を強いられたことを、嘆いている暇はなかった。

「……朔弦」

 煌凌は重たげに頭をもたげる。

「余が直接、瑛花宮へ出向く。妃選びの中止を直々(じきじき)に伝え、春蘭を迎えに」