芳雪の問いに春蘭は首を横に振る。
「うちは来ないの。ぜんぶ終わるまで会えないわ」
父からはあらかじめそう言われていた。
差し障りがないよう、鳳家および鳳邸の人間は瑛花宮へは来ない。
そうすれば、少なくとも妃選びにおいて禍根を生むことはない。
────こればかりは元明も寂しく心細いであろう娘の心情を優先するわけにはいかなかった。
そうした甘さがつけ込む隙を生むことを知っているからだ。
無論、春蘭のことは案じられて仕方ないが、その点は悠景や朔弦が気にかけてくれているのに一任していた。
春蘭が屋敷を出る際には、いつでも帰ってくるよう言われたが、それはつまり、すべてを諦めるのと同じことだ。
ゆえに結果がどうであれ、妃選びが終わるまでは会えないのである。
「そうだったの。でも、会いにきてくれる人はいるわね」
悠景と朔弦のことだ、とすぐに思い至る。
「色々お世話になってるの」
そう答えた春蘭は、ふと気がついた。
「芳雪は────」
思い返せば、誰かが会いにきているところを一度も見ていない。
楚家が油断ならない状況にあるせいか、あるいは本邸が柊州にあるからだろうか。
しかし、桜州にも親戚の家があると言っていた。誰かひとりくらいは来てもいいはずだ。
「わたしは親戚と折り合いが悪いから」
芳雪は苦笑混じりに肩をすくめる。
櫂秦も交え、同じようなことを話していた覚えがある。
それには彼女たちの“兄”が関係しているのではないかと、春蘭は直感的に思った。
「ごめんなさい。うちにいるから櫂秦も来られないわね……」
「とんでもない。迷惑になってない? いつでも追い出してくれていいんだからね。礼儀知らずの甘ったれなんだから」
遠慮のない言い草だが、姉弟仲のよさが窺える。
春蘭はつい小さく笑った。
「そんなことないわよ。もともと、助けてもらったのはわたしだし……ふたりとも恩人だわ。少しでも恩返ししないと」
「でも、恩返しとか言って審査で手を抜くのはなしだからね」
実際、それを一考もしなかったわけではなかった。
しかし、ここでは結局のところひとりしか残れない。
誰かに遠慮したり譲ったりしては、損をするのは自分自身である。それは、目的を放棄するも同じ。
「分かってるわ」
先ほどの彼女のように肩をすくめた。
庭院の端の方にある小さな鏡池まで来ると、どちらからともなく足を止める。
藍の夜空で星が瞬いた。静かな風が通り過ぎていく。
「芳雪は、王妃になりたい?」



