桜花彩麗伝


 生意気な叱責(しっせき)も、澄ました態度も、落ちぶれるための布石(ふせき)だったのだ────そう考えると、可笑しくて笑ってしまう。

(いまさら後悔したって遅いのよ。わたしを甘く見た罰ね)

 満足そうに笑う帆珠を見た容燕は、髭を撫でつつ「ところで」と話題を変えた。

「一次審査に関わった巫女は国巫以外、みな太后が捕らえた。じき、拷問の末に死ぬことになろうな。そなたに見せてやれぬのが残念だ」

 恐れ多くも蕭家の娘にあのような戯言(ざれごと)を言い渡した巫女たちである。
 太后がやらなければ、帆珠が父に頼んでどうにかしてもらう気でいた。
 死に様を見届けられないのは悔やまれるが、瑛花宮を出られない以上は仕方がない。

「父上が見届けてくだされば満足ですわ」

「そうか、ではわたしも立ち会うとしよう」

 娘を虚仮(こけ)にした報いを受けさせなければ、容燕とて気が済まない。
 しかし、それこそ面倒なことにならないよう、計画が無事終わってからで十分であろう。

 ────間もなく、開戦の火蓋(ひぶた)が切られる。



     ◇



「……陛下」

 宮外から帰還した菫礼が、陽龍殿へ参殿(さんでん)するなり神妙な面持ちで呼びかけた。
 滅多に口を開くことのない彼にしては、緊張感を煽るような硬い声色である。

「ん?」

「念のため、お耳に入れておきたいことが────」



     ◇



 その日、あるひとりの男が遺体で発見された。

 首に切り傷を負い、山道の竹林(ちくりん)で横たわっていたところを、通報を受けた官衙の役人が見つけた次第である。
 傍らには遺書が残されており、十五年前の罪を(あがな)うべく自殺したと記されていた。

 十五年前────兇手(きょうしゅ)として暗躍していた彼は、鳳家当主・元明の正室を殺害したという事実をいまになって自白してみせた。
 遺書によると、それは蕭派である虞家および寧家の指示であったという。



     ◇



 日の暮れた瑛花宮は、いつになく閑散としていた。
 落第した二十五人の令嬢が去り、配されていた女官の数も減ったことで、寂しいほどの静けさに包まれている。

 昨日までとは異なり、相部屋ではなくひとりにひと部屋が宛てがわれるようになった。
 それもあり、宮内がやけに広々として感じられる。

「何か変な感じよね。今朝まであんなに賑やかだったのに」

 夜の庭院(ていいん)を散策しながら、芳雪は何気なく春蘭に語りかけた。

「たったひとつ審査を終えただけなのに、こんなにも減ってしまうものなのね」

 最終的にはひとりを選ぶのだから、人数が減っていくのは当然とはいえ急激でもの寂しい。
 ()()()()責任がいっそう湧いたような気がする。

「そういえば、家族は会いにきてくれた?」