この関係には名前がない

——『そんなもの無い方がいいことだってある』

この数か月のことが、一気に頭の中を駆けめぐる。

「ストップ!」
目を瞑って、グイッと彼を押し退ける。

「だめだよ」
「なんで」

「……だって、私たちの関係に……名前がついちゃう」

——〝浮気相手〟って。

「真下くんとは、良くない関係に、なりたくない……」

彼は黙ってしまった。
どこかその気で部屋に上がったくせに勝手な言い分だと思う。

「はあっ」
また大きなため息。

「なんだかんだいっても大人ですね。俺より全然」
「……ごめん」

「止めてくれて良かった」
そう言って、彼は切なげにくしゃっと笑った。

「あの夜の次の日『よろしく』って言ったのは、真下くんだからだよ」
彼の目を見る。

「あの夜、あんなに失礼だったのに『おやすみ』って言ってくれたから。次の日も、笑ってくれたから。絶対良い人だって思ったの」

「何それ。危なっかしいカンだな」
「でも大正解だったでしょ?」
涙が滲んだ目で笑う。
そしたら真下くんも笑ってくれた。

「飲も!」

それから、仕切り直しの乾杯をした。

「たしかにこのビールにはシナモン合うね」
「キスで味見しないでくださいよ」


それからその夜は、バカみたいに何度も何度も、キスの代わりに瓶を傾け合った。