この関係には名前がない



2月の終わり。外は随分春めいてきた。

真下くんは無事卒業が決まってお祝いの乾杯なんかもした。
4月からは大学と同じ敷地内の大学院に行くらしい。
ということは、4月からも彼はお隣さんだ。

うれしいような、怖いような。
そんな気持ちを抱えながら、いつものコンビニに行く。

「仁がいつも飲んでるのってこれだっけ?」

『仁』という響きにすぐにはピンとこなかった。

「そ。でも箱で買ってあるから今日は買わん」

その声でなぜかギクッとして、ピンときた。

真下くんと、彼の恋人。

「あ、木崎さん」

二人が駅の方へ歩いていくのを遠目に見たことはあった。
だけど、会うのは初めてだ。

「え? 誰?」
「お隣さん。こんばんは」
「……どうも」
彼女はペコリと頭を下げて、にっこり微笑む。

ショートカットで『彼女も同類なんで』って言った真下くんの言葉がよくわかる落ち着いた雰囲気の子だ。
頭良さそう。

「それじゃあ」
私は笑顔を作って早々に退散することにした。

—— 『仁』
下の名前で呼ばれる真下くん。

—— 『そ。でも箱で買ってあるから今日は買わん』
敬語じゃない真下くん。

私にだっているのにね。そういう相手。

——『お隣さん』
それ以上でもそれ以下でもない、正しい説明。
ため息をつくようなことじゃないのに。