この関係には名前がない

◇

2月の終わり。外は随分春めいてきた。

真下くんは無事卒業が決まってお祝いの乾杯なんかもした。
4月からは大学と同じ敷地内の大学院に行くらしい。
ということは、4月からも彼はお隣さんだ。

うれしいような、怖いような。
そんな気持ちを抱えながら、いつものコンビニに行く。

「仁がいつも飲んでるのってこれだっけ?」

『仁』という響きにすぐにはピンとこなかった。

「そ。でも箱で買ってあるから今日は買わん」

その声でなぜかギクッとして、ピンときた。

真下くんと、彼の恋人。

「あ、木崎さん」

二人が駅の方へ歩いていくのを遠目に見たことはあった。
だけど、会うのは初めてだ。

「え? 誰?」
「お隣さん。こんばんは」
「……どうも」
彼女はペコリと頭を下げて、にっこり微笑む。

ショートカットで『彼女も同類なんで』って言った真下くんの言葉がよくわかる落ち着いた雰囲気の子だ。
頭良さそう。

「それじゃあ」
私は笑顔を作って早々に退散することにした。

—— 『仁』
下の名前で呼ばれる真下くん。

—— 『そ。でも箱で買ってあるから今日は買わん』
敬語じゃない真下くん。

私にだっているのにね。そういう相手。

——『お隣さん』
それ以上でもそれ以下でもない、正しい説明。
ため息をつくようなことじゃないのに。