この関係には名前がない

「いい加減にしてくれません?」

「え……」

真下くんが急に苛立った声色になったから、心臓がギクリと音を鳴らす。

「って、木崎さんに最初に会った夜の一言目に言ったなって思って」
すぐにいつも通りの声。

「びっくりした。急に何」
「ほらやっぱり。嫌でしょ、怒られるの」
「え?」

「怒られなかったのは、普段の木崎さんがちゃんと仕事してるからだと思いますよ。過去の自分が貯めておいてくれた財産なんだから、受け取ればいいんですよ」
「財産……」

「落ち込むよりも、築いてきたものを大事にしないと簡単に無くなりますよ」

迷惑をかけた部署の人に『今後は気をつけてくださいね』と言われたことの重みを感じる。

「真下くんて、本当に21歳?」
心が少し軽くなって、思わず笑みがこぼれた。

「……ビール持ってこよっ」

「さすが」
ビールを取りに部屋に戻る背後で、真下くんが苦笑いしてるのがわかった。
再びベランダに出ようとした瞬間、〝ドンッ〟という鈍い音がどこからか聞こえる。

「え? 何?」