夏に願いを

「やば! 時間!」
「うわ、ほんとだ」

……いいんだ。つまり今じゃないってことだ。
僕は言いかけた言葉を飲み込み、二人で後片付けをサッと済ませ、来た道を戻り駅に向かった。

電車の時間まであと数分。改札に入ってしまえばすぐホームだし、大丈夫。僕はそう思っていたけれど、叶居さんは少し急ぎ足で僕の前を行く。僕は名残惜しく背中を見つめていた。そうしたら叶居さんが急に振り向いて、僕の手を引いた。
息が止まるかと思った。

「急ごう!」

繋いだ手は細くて、さらさらで、あたたかだった。いつまでも、離したくないなと思った。いつか気持ちが届くまで、この夏が永遠ならいいのに。帰りの電車に揺られながら、僕は今日という夏に願った。

僕の青春タイムリミットが、もう少しだけ延びますように。