女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。





加賀見先輩は何やら咳払いをする。

それから、どこか照れくさそうな声で言った。




『電話で話すのは少し変な感じがするな』


「あはは、確かに」


『夏休みは楽しんでいるか?』


「宿題難しすぎて泣いてます。先輩は毎日何して過ごしてるんですか?」


『ここ数日は、親の会社を視察させてもらっているんだ。今は休憩時間』


「オヤノカイシャ ヲ シサツ」




おおう、まじですか。思わずカタコトになってしまったではないか。

内部進学はそう難しくないとはいえ、三年生なんだから「受験勉強をしている」ぐらいの答えがくるかと思ったのに。

そっか。先輩は大きなグループの跡取りなんだもんな。


……すごいなあ。

目の前の勉強にいっぱいいっぱいの私と違って、もっと先を見ながら毎日を過ごしてるんだ。



そうやって尊敬の念を抱いた私に、先輩は少し声をひそめて神妙に言った。



『だが少し問題があってな』


「問題?」