女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。




とりあえず近くまで行って、落ちているものを見下ろす。

目を閉じてぴくりとも動かない美形の三年生男子。予想通り。


……これあれだよなあ。下手に起こして私の顔見たらまた悲鳴上げるやつ。

私のことは怖くないといっても、起きたその瞬間の頭が回らない状態では、目の前の女が川咲瀬那だとは判断できない可能性がある。




「加賀見先輩。こんなところで寝てたら日焼けしますよ」




何度かぽんぽんと肩を叩くと、先輩はわずかに反応を見せた。

もう一度叩けばまぶたがピクリと動いたので、私は持っていた教科書でさっと顔を隠す。




「ん……あれ、ここは……?」


「中庭デスッ!マタタオレタンデスカセンパイ?」




目を覚まして上半身を起こした先輩の呟きに、私は鼻をつまんで1オクターブ上げた声で答える。

イメージはボイスチェンジャーを通した性別不明の声。




「……何してるんだ川咲?」


「……」




起きた瞬間の回らない頭で目の前の女が川咲瀬那だって判断できるんかい!

ただの気まずい沈黙だけが降りてきてしまった。