女嫌いなはずの御曹司が、庶民の私を離しそうにない。





私の申し出を先生は笑って聞き流す。




「とにかく、教えに来てくれて助かったよ川咲さん。もう行っていいぞ」


「え、でも……」




何故だろう。

先生の態度は、私のことを追い払おうとしている感じがしないでもない。

だけど私としては、倒れているところを発見してしまったからには、この人がちゃんと目を覚ますところを見ないと寝覚めが悪い。

はいそうですかと引き下がる気にはなれなかった。




「あの、ちなみに誰なんですかこの人は」




せめて素性ぐらいは知っておこう。

そう思ってそう聞くと、先生は意外そうに目を見開いた。




「川咲さん、こいつのこと知らない? 高等部だよな?」


「え、はい……。まだ入学して二カ月なのであんまり人の名前知らなくて」


「ああそうか。特待生だったか」




先生は納得したようにうなずいて説明する。




「こいつは高等部三年の加賀見律弥(りつや)。この辺りで大きな力を持つ歴史ある加賀見家の跡取りなんだ。それに加えて何をやらせても優秀、そして極め付きがこの顔だからな。可哀想なことにずいぶんモテるらしい」