やがてそっと腕の力を緩めた先輩は、静かに息をついて私に目線を合わせた。
何だろうと思って首をかしげると、そのまま優しく手を握られる。
「俺はずっと、瀬那が『初めて会った怖くない女子』だから自然と惹かれてしまったのだと、そう思っていた」
「え、はい。そうなんでしょ?」
改めてどうした。
不思議そうにする私を見て、律弥先輩は静かに首を振った。
「逆なんだ」
「逆?」
「初めて話したあの日──俺は瀬那に、一目惚れしていたんだと思う」
「はい? ひとめぼれ?」
思わず眉をひそめる。
一目惚れ。女性恐怖症の先輩にはあまりに縁の遠そうな言葉。
だけど先輩の表情は真剣そのもので。
「川咲瀬那という個人を好ましく思う気持ちが、女性に対する恐怖心を上回った。だから瀬那だけは平気だったんだ」
「いやいやいや。何か上手いこと言ってるけど騙されませんよ。あの日私の顔見て悲鳴上げてたのばっちり覚えてますから」
「あれは女子が目の前にいると気付いて反射的に……でも本当なんだ」



